食品加工事業における知的障害者就労支援の最適モデルの構築に関する研究
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概要
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2006(平成18)年10月に本格施行された「障害者自立支援法」では、各障害種別に分かれていた福祉サービスを一本化するとともに、障害者が法定福祉サービスを利用する場合、従来所得に応じて負担する事になっていた利用料については原則一律一割の自己負担が求められるようになった(社団法人中小企業診断協会福岡県支部障害者授産施設賃金ステップアップ支援研究会、2008)。障害者の多くは障害者年金と就労で得られた収入で生活している。障害者の就労を支援するため、わが国では1960(昭和35)年に「身体障害者雇用促進法」が制定され、その後時宜に合わせて改正を繰り返してきた。1987(昭和62)年に改称された「障害者の雇用の促進等に関する法律」においては障害者雇用率制度を柱とした支援施策が実施されている。また、2002(平成14)年に定められた「障害者基本計画」によっては「働くことによって社会に貢献できるよう、その特性を踏まえた条件の整備を図る」とする方針が示され、更に「障害者自立支援法」において障害者が自ら選択した就業生活を実現することが可能となるよう就労支援事業の機能を分類するとともに、障害者自身のニーズや就労能力に応じて自分に相応しい福祉サービスを利用できる仕組みが用意されている。障害者の働き方には会社勤めや自営などの「一般(的)就労」と福祉サービス事業所の支援を受けながら訓練を兼ねて働く「福祉的就労」の大きく2種類に分けられるが、後者の主たる就労先である授産施設または就労支援事業所(以下「授産施設等」という。)の平均賃金はおおよそ1万5千円程度であり、暫定的な軽減措置が講じられているとはいえ、サービス利用料の一部負担を考えると、障害者の生活は経済的に非常に厳しい状況にあると言える。こうしたことから、授産施設等に対しては平均工賃を引き上げる取り組みが求められているが、特にその授産施設等の歴史が古ければ古いほど提供する労働の多くが企業の下請けや内職的なものとなっており、そこでの事業所職員の役割といえば「作業室一斉塑」といわれるデイサービス的な日中活動支援としての介助が主目的となっている状況がある。この場合、往々にして長期にわたる生活の場として「仕事もしくはそれに代わる活動が途切れないこと」が重要となっているため、本来就労の場として求められている個々の能力や適性を尊重した労働そのものの支援であったり事業の前提である「計画的・効率的に労働し対価として利益を分配する」ことによる所得保障としての自立支援の役割責任は十分に果たされていない。 2006(平成16)年12月13日に第61回国連総会において採択された「障害者権利条約」では「障害のある人にとって、開かれ、インクルーシブで、かつ、アクセシブルな労働市場及び労働環境」が保障されるべきであると詣われている中、わが国における福祉的就労は、障害者のみが集まり、他の労働者と異なる労働条件と労働環境の中で働くことを意味している(副島、2008)。ノーマライゼーションの実現のためには、職業を通じての社会参加が基本となるものであり、障害者がその適性と能力に応じて可能な限り雇用の場に就くことができるような社会環境の整備、個々人に対するエンパワメントの支援が重要であることは言うまでもない。そもそも人が働く目的は、第一に衣食住の資を得ることによる「生計の維持」のため、第二に社会的に期待される「職分」の遂行を通した「役割の実現」のため、第三に個人の「天職」を自覚して行う活動の中にある「個性の発揮」のため、そして第四に主体的な自己の確立としての「自己実現」のためだとされる。当然のことながら、現状の福祉的就労に対する障害者のニーズや、賃金の多寡に拘わらず「働く」という意義を考えた場合、一般(的)就労の積極的な推進を図る一方、福祉的就労の場における支援内容の改善が大きな課題となっている。すなわち、障害者が地域で経済的かつ精神的に自立した生活をするためには、一般(的)就労-の移行支援と同時に、福祉的就労の工賃水準の向上及び職業リハビリテーションの視点に立った個々の現有能力を活かした労働の適正配分を保障することが必要不可欠な条件であると言える。
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