患者からの情報収集方法の検討-稀少性難治性疾患患者の受療ヒストリーから-
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概要
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診断が困難で,治療法の確立されていない稀少性難治性疾患の患者は,症状が発現してから確定診断に至るまでに数年を要することがある.それだけでなく,その数年の間に,医療機関でくだされる診断が二転三転するケースもあり,患者にとって身体的・精神的苦痛をもたらすものとなっている.厚生労働省の難治療性疾患克服研究事業において「稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班」が組織されたのをはじめとして,稀少性難治性疾患の臨床研究が進められてきた.他方で,上記のような不確実性に由来して患者が日常生活の中で経験する精神的苦痛に関しては,参照できる資料が限られている.稀少性難治性疾患患者の受療ヒストリーに着目する本研究は,くだされた診断に違和感を覚え,やり場のない不安感を抱えながら複数の医療機関を訪れ,それぞれの機関から異なる診断を示された者の一連の経験の軌跡(trajectory)を提示している.そこでは,不確実性の中にあって,症状が確実に進行していくのを身体感覚として自覚することが,患者の不安と不信感を増幅させていることが示されている.受療ヒストリーを辿っていく作業の中から明らかにされたのは,情報に関する一方向性の問題であった.受診のたびに医師が変わることに対する不安感は,調査協力者に共通するものであった.医療機関内部の情報シェアリングの内容がいかなるものであるにしても,患者自身がその取り扱われ方について知る機会が無いために,不安感が助長されるかたちとなっていた.患者が現実に直面している日常生活上の苦痛・困難を理解するためには,経時的変化を追うことのできるかたちで情報が整備されていることが重要であると考えられる.疾患ベースによって,一定の軌跡を持つ受療ヒストリーの情報が切片化されるばかりでは,本研究が示してきた「情報の一方向性」の問題の解消は難しく,この点こそ情報収集において留意すべき大きな課題であると考えられる.
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