ノンバンクと銀行の業務提携貸出契約における情報生産の利益
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概要
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近年、国内ノンバンクと銀行が合弁で個人向けローン会社を設立するケースが増加している。このような銀行とノンバンクの提携の狙いには、以下のようなものが考えられる。すなわち、銀行は、バブル崩壊後の企業向け融資の収益悪化から、収益性の高い個人向け無担保ローン業務へ進出したいが、融資額や金利を適切に決めるための貸し手のリスクを評価する審査能力をもたないので、ノンバンクと提携することによりこうしたノウハウを獲得したい。一方、ノンバンクは銀行との業務提携によって社会的信用を高め、自社ブランドでは開拓が困難な新しい顧客層を獲得しようとしているものと思われる。本稿では、このようなノンバンクとの業務提携における銀行側のインセンティブに着目し、優良顧客(貸し倒れリスクの低い顧客)と高リスクの顧客を識別するノウハウをノンバンクから獲得することが銀行の利潤を増加させるかどうかモデルを使い分析する。そのために、返済確率が異なる2つのタイプの借手を仮定する。借手のタイプを識別できない銀行は、不完備情報の下で資金の供給を決定する。Stiglitz and Weiss(1981)が示したように、このような状況では超過需要にもかかわらず資金市場が均衡する場合(信用割当均衡)がある。本稿では、適当なパラメータの値において、このような均衡が生じる可能性を示し、その場合の銀行の利潤を求めた。さらに、この信用割当均衡における利潤を、銀行が顧客のタイプを識別できる場合(完備情報)の利潤と比較した結果、同じパラメータの値でも前者よりも後者における利潤の方が大きいことを確認した。この結果は、ノンバンクに一定の金額を支払い返済確率の異なる顧客を識別するノウハウを獲得する誘因が、銀行にあることを示唆している。さらに、Stiglitz and Weiss以降の信用割当理論の系譜では、担保による調整機能が貸出市場の実態を説明するものとして中心的な役割が与えられてきたのに対して、われわれの分析は近年のわが国における消費者金融市場の実態を踏まえ、情報生産機能の強化(あるいはコスト削減)に注目した点で大きな意義をもつと言える。
- パーソナルファイナンス学会の論文
- 2005-09-30
著者
-
新海 哲哉
関西学院大学経済学部
-
岡村 誠
広島大学経済学部
-
岡村 誠
広島大学大学院社会科学研究科
-
飯田 隆雄
札幌大学経済学部
-
飯田 隆雄
札幌大学
-
森 伸宏
奈良教育大学社会科教育講座(経済学)
-
井澤 裕司
立命館大学
-
森 伸宏
奈良教育大学
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