台湾におけるルリマダラ類の越冬集団
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概要
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著者の一人,松香は1978年の2月と1979年12月から1980年1月までの2回,台湾南部においてルリマダラ類の集団越冬地を調査した.また,松香は越冬中のルリマダラ類の行動を観察し,一部の雌の腹部をアルコールに浸して持ち帰った.腹部の解剖およびデータの解析等は石井が行った.この調査で,嘉義から楓港の間で16ケ所のルリマダラ類の越冬地を発見した.これらはすべて,2,000〜3,000m級の山の連なる台湾中央山脈の西麓に位置し,越冬集団は標高100〜800mの渓谷を覆うチークや相思樹の樹林,あるいは種々の雑木から成る自然林内に形成されていた.越冬地の斜面の向きはさまざまであった.各越冬集団の大きさぱ特に調べなかったが,およそ数千から5万個体以上と見積られた.越冬集団ぱ,個体数の多いルリマダラ(Euploea)属のルリマダラ(sylvester),ホリシャルリマダラ(tulliollus),ツマムラサキマダラ(mulciber),マルバネルリマダラ(leucostictos)の他,コモンマダラ(Tirumala seplentrionis),ウスコモンマダラ(T.limniace),リュウキュウアサギマダラ(Ideopsis similis)を中心に構成されていたが,タイワンアサギマダラ(Parantica melaneus),ヒメアサギマダラ(P.aglea),スジグロカバマダラ(Salatura genutia)も少ないながら見られた.また,集団により優占種は異なっていた.越冬地のルリマダラ類は,朝林内に日が射すと活動を始め,午前中は日光浴や吸水などの行動が観察された.吸水の際は,葉の上の露を吸うものもあるが,渓流の岸辺に下りるものもあった.1月下旬以降はマンゴーなどの花で吸蜜する個体も見られ,交尾ペアも確認された.白昼,気温の高い時は,蝶たちは物音に驚いて飛び立つことが多かったが,天気の悪い日や夜は,林内の樹木に樹冠部を避けて静止していた.1979年12月下旬に六亀の越冬地で収集したルリマダラ4種の雌の卵巣は未成熟で,精包も認められなかった.また,台湾最南端の墾丁公園で採取したホリシャルリマダラ雌の腹部にも成熟卵や精包は見られなかった.冬期のルリマダラ類は生殖休眠の状態にあると言える.一方,同時期に六亀の越冬地で採取したスジグロカバマダラ20個体のうち4個体には成熟卵や大きな未成熟卵が,10個体には精包が認められた.また,墾丁公園で捕らえたタイワンアサギマダラ2個体は,ともに成熟卵も精包ももっていた.これらのマダラチョウは冬でも繁殖を続けているものと推定される.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1990-10-20
著者
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