チョウ類の重要なハビタットとしての日本の伝統的田園景観「里山」におけるさまざまな遷移系列の植生モザイク
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概要
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大阪府北部の三草山周辺に広がる伝統的田園景観"里山"の農村および里山林景観において,2004年の4月から10月にかけて,トランセクト法によるチョウ類群集の調査を行った.これら2つの景観は,植生構造に基づき複数の景観要素に分けた.すなわち,農村景観のトランセクトについては平地水田,山麓集落および谷津田の3種,里山林景観については林間草地,皆伐跡地,林縁,中木林,高木林,ヒノキ植林他の6種の景観要素に分けた.そして2つの景観および9つの景観要素の間で,チョウ類の群集構造の比較を行った.チョウ類群集の構造の解析には,各種の主要な寄主植物の出現する遷移段階に基づいて算出した"遷移ランク(SR)"を用い(Table 3 参照),各々のSRに属する種の種数や個体数の構成について,景観間および景観要素間で比較を行った.調査の結果,調査地全体から合計7科56種1322個体のチョウ類が記録された.種数および密度については里山林景観(46種,20.4個体/km)が農村景観(39種,13.1個体/km)より大きかったが,種多様度指数(1-λ)や均衡性指数(J')は農村景観(それぞれ0.91,0.75)が里山林景観(0.85, 0.66)より高かった.里山林の各景観要素については,3種のササ食者(クロヒカゲ,ヒカゲチョウ,サトキマダラヒカゲ)の密度が高いという共通の特徴がみられた.また,里山林景観では農村景観と比べて1化性の種が多く(それぞれ12種,5種),特にイネ科草本や森林性スミレ類,落葉性カシ類を寄主とする種の密度が高かった.SR指数に基づく群集構造の解析では,農村景観の各要素においては,モンキチョウ,モンシロチョウ,ベニシジミなど低茎から高茎草原に出現する宿主植物に依存する種の密度が高かったのに対して,里山林景観においては,コミスジ,クロヒカゲ,サトキマダラヒカゲなど落葉広葉樹林に出現する寄生植物に依存する種の密度が高かった.また,ヒメウラナミジャノメやスジグロシロチョウ,コチャバネセセリのように,高茎草原から若齢林に出現する寄生植物に依存する種には,両景観で個体数の多いものもみられた.以上のように,里山には低茎草原から落葉広葉樹林までの幅広い遷移系列の植生に依存するさまざまなタイプのチョウ類群集が存在することが示された.また,農村,里山林それぞれの景観に強く依存するチョウ類に加え,両景観に共通する種も少なくないことから,さまざまな遷移系列の植生のモザイクを維持することは,里山のチョウ類の種多様性を保全する上で重要であるといえる.
- 2007-01-10
著者
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西中 康明
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科
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石井 実
Entomological Laboratory, Graduate School of Agriculture and Biological Sciences, Osaka Prefecture U
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西中 康明
Entomological Laboratory, Graduate School of Agriculture and Biological Sciences, Osaka Prefecture U
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石井 実
Entomological Laboratory Graduate School Of Agriculture And Biological Sciences Osaka Prefecture Uni
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