異なるスポーツ競技種目のエキスパート・コーチを対象としたコーチング・コンセプトの定性的分析
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概要
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Ericsson等(1993)は、スポーツ、音楽、芸術、科学等、様々な領域における卓越したパフォーマンスが、10年以上に渡って継続的に蓄積された合理的で構造的な練習(deliberate practice)によるとする研究成果を報告している。この合理的で構造的な練習とは、「現在のパフォーマンスを向上させることのみが目的とされた活動」であり、「高度に構造化されており、楽しみを伴わないが故に遊びとは区別され」、また「直接的な報酬を伴わないため仕事とは異なる活動」と定義づけられている(Ericsson等、1993)。こうした「熟達化」解釈の文脈の中で、視点を卓越したパフォーマーから指導者へと移した場合、指導者の役割は「選手が合理的な構造的練習に専心するよう様々な阻害要因を取り除くこと」にあると考えられる(Salmela、1996)。本稿の目的は、異なるスポーツ競技種目の日本人エキスパートコーチを対象とし、彼等彼女等がもつコーチング・コンセプトを定性的に掘り起こし分析することにある。20名のコーチを対象に一人約90分間、1対1の半構造的自由回答的調査面接を実施した。調査面接後直ちに作成されたトランスクライブ・データをもとに、Cote等(1993)による定性的データ分析法を用いた分析作業を行った結果、empowering(自己統制への委譲)、directing(目的達成への教示)、およびorganizing(環境設定)の3つの大カテゴリーが抽出された。各カテゴリーの分析結果から、異なる競技種目の日本人エキスパート・コーチは選手の卓越性獲得に向け、選手自身による自己統制を形成すると同時に、コーチ自身による徹底した目的追求を合理的に追求し、選手と指導者を取り巻く環境を最大限改善していくという構図が明らかにされた。そこでは環境、動機づけ、および専心性の3領域に存在する卓越性獲得の阻害要因を最小限にとどめ、合理的で構造的な練習に選手が継続的に専心できるよう具体的な行動が発揮されている点が確認された。
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