Bacillus thuringiensis製剤の紫外線による生物活性低下を抑制する保護物質の探索 : 三酸化二鉄について
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概要
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昆虫病原微生物(ウイルス,細菌,カビ,微胞子虫,線虫)を利用した生物農薬では散布後の作物における残留活性に環境要因が大きく影響し,中でも太陽光がもっとも活性を低下させるが,その度合は昆虫病原微生物の種類によって異なる(Ignoffo, 1992).昆虫病原細菌の一種Bacillus thuringiensis(Bt)が産生する結品性蛋白毒素(δ-endotoxin,以下トキシンと略)を主な有効成分とする生物農薬は,わが国ではBT剤と称されている(鮎沢,1986).このBT剤のトキシンは蛋白質から構成されており,太陽光,とくに紫外線(UV)によって生物活性が消失しやすく,BT剤の利用場面において残効性の短いことの一因とされている(浅野・宮本,2007).そこで,BT剤に有効なUV保護剤が開発されればBT剤の害虫防除への利用が拡大すると期待される.BT剤にUV保護効果を示す物質としては,いままでに摂食刺激物質のCoax(Sneh and Gross, 1983; Sneh et al., 1983)やpheast(Li and Fizpatrick, 1999),紫外線吸収剤Uvinul DS49およびErio Acid Red XB100 (Morris, 1983),デンプン(Dunkle and Shasha, 1988, 1989), acriflavin, methyl greenおよびrhodamine B(Cohen et al., 1991), Melanin(Liu et al., 1993),綿種子と砂糖の混合(Ridgway et al., 1996),デンプンと小麦の混合(McGuire et al., 1996),カゼイン,グルテン,小麦粉や蔗糖の混合(Behle et al., 1996, 1997)などが報告されているが,UV保護剤として実用化されたものはほとんどない.BT剤に有効なUV保護物質の探索に当たってはそれに適した簡便な室内評価法の確立が先決である.そのためには種々の試験条件をあらかじめ設定しなければならない.筆者らは,先にUV照射に用いる光源の種類,照射量(照射距離および照射時間),照射検体の状態,照射後の活性評価に用いる昆虫種および処理方法について検討した(浅野・宮本, 2007).そして,Asano(2005)が報告した顆粒病ウイルス剤にUV保護効果を有する四酸化三鉄(Fe_3O_4)を用いてBT剤に対するUV保護効果を評価した.その結果,この物質がウイルス剤と同様にBT剤に対してもUV保護効果のあることが確認された(浅野・宮本,2007).筆者らは,この四酸化三鉄よりさらに高いUV保護効果を示す物質を探索するため,先報とは酸化の程度の異なる三酸化二鉄(Fe_2O_3)のBT剤に対するUV保護効果を調べたところ,後者は前者よりUV保護能力が約10倍高いことが推測された.本文に先立ち,カイコ2齢幼虫の定期的な供給にご協力を頂いた当研究所技術支援室吉田主成,井波勇二並びに大沼美雪の諸氏に謝意を表する.
- 2008-02-25
著者
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浅野 昌司
独立行政法人農業生物資源研究所
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宮本 和久
独立行政法人農業生物資源研究所
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和田 早苗
独立行政法人農業生物資源研究所
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村上 理都子
独立行政法人農業生物資源研究所
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三橋 渡
独立行政法人農業生物資源研究所
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三橋 渡
生物研
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