大豆種子中の水の性状に関する研究
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概要
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豆,穀類の人工乾燥は機械化作業体系および収穫物の品質保持上,きわめて重要な位置を占めている。人工乾燥理論に関する報告は穀類については,これまでに相当数あり,また豆類についても,ようやく増大しつつあるが,近年,人工乾燥物の食味などの観点からして,これら豆,穀類に含まれる水の存在状態に対応すべく,最適乾燥条件の設定が急務とされてきた。にもかかわらず,豆,穀類に限っていえば含有される水の性状そのものに関する系統的な研究が,あまりにも少ない現況にある。動植物組織に含有される水は,従来,種々なる方法にて,大まかに,自由水と結合水とに分類されていて,とくに筋肉,魚貝類など動物組織中の結合水に関する研究は多いが,著者は-25℃にて,なお不凍な水をもって結合水(不凍水)と定義し,自由水分域との境界点をして人工乾燥の最適条件設定の変換点とする仮定をとるものである。所属大学の立地条件と増大する需要性とにかんがみ,実験材料として大豆を選択したが,その成果は,他の豆・穀類にも応用しうると思考される。ここで大豆種子の場合,含水率20%(w.b.)程度までの水が結合水的であるという知見を得たので,その概略を以下に6実験項目別に述べる。1.大豆(トヨスズ)種子の形状と組成 材料として選出される種子が母集団を代表するために,代表値を求めたが,その結果,種子の長さ,x(mm)に対する重さ,y(g)の回帰式y=0.079x-0.375と長さのヒストグラムより大きさ(長さ)を重量に置き換え,0.29〜0.31gが代表値であることを確め,その値を以後の実験での種子の選出に適用した。また,見掛け凍結水分量を増大させる可能性のある脂肪分を主に分析し,ガスクロマトグラフィーにより,その脂肪酸構成は,多含量の順にlinolic acid,oleic acid,linolenic acid,palmitic acid,stearic acidであることを知った。2.内部表面への水の吸脱着 吸脱着等温線の形状より水の状態に関する相当量の情報が得られることから,25℃で,50日間の平衡水分曲線を求めた。その結果(1)未熟粒と完熟粒の平衡水分の間には明白な差異がみられない。(2)大豆種子の等温線はS型である。(3)実測値はRAMSTADらのそれに大体一致した。(4)B-E-Tの方程式より,単層最大吸着量,Vmは5.46(%,d.b.)である。(5)したがって,等温線は単分子層(0〜5.5),多分子吸着(5.5〜7.3)および凝縮域(7.3%,d.b.以上)に3区分されうる。(6)内部表面積は乾物100g当り1.998×10^4(m^2)で,トウモロコシのそれよりは小さい。(7)多分子吸着に相応すべき層数nはせいぜい5である。(8)吸着潜熱E_1は12.234(kcal/mole)である。3.不凍水(結合水)の定量 著者はWALTERらの蘇糖溶液の冷却・凍結曲線に囲まれる面積と含水率との間に高度な相関を認めたので,大豆種子の不凍水分量(全水分量-凍結水分量)の測定にも,凍結による面積法の適用が可能と考え,その確認を含めて凍結曲線に関する実験をおこなった。その結果,(1)蒸留水量(x,g)に対する面積(y,cm^2)の回帰式および大豆種子の含水率に対する面積の回帰式は,それぞれy=108.29x+0.31 y=106.58x-7.26で,前者はほとんど原点を通り,両者の勾配には差異がみられない。(2)回帰式y=106.58x-7.26からx軸の切片18.68(%,w.b.)が得られるが,これを大豆種子中の不凍水分量(結合水分量)とする。(3)脂肪成分は凍結せず,凍結水分量に影響を与えない。(4)凍結曲線上からは自然大豆種子と加湿大豆種子との間に,明白な差異が認められず,後者が前者の代用になりうる。(5)40℃,0.009kg/kg,0.054m/sの乾燥条件で初期水分30〜35%(w.b.)の大豆種子を最終水分25〜30%なる乾燥をしたものについてのテンバリングは,非テンバリングに比して,20%程度,中心部の水分含量を減少させる。4.大豆粉末の核磁気共鳴スペクトル 核磁気共鳴(NMR)法は組織中の水の定量および最近のpolywaterの検索の手段として,有力な分析法となりつつあり,たとえばSUSSMANらは,タラの肉を用いて,高分解能NMR装置によって,液状水の定量が可能と報告している。著者は,NMRスペクトルのピーク幅が,含水率によって急激に変化するところをもって自由水分領域への移行と考え,その変化点を知ろうとした。材料はNMR法の制約から大豆粉末である。その結果,(1)P_1,P_3なる2つの主たる広幅シグナルが,tetrametylsilaneのシグナルの低磁場側に観察された。(2)P_1のピーク幅は含水率の増大にともなって,漸減して急激な変化点を示さず,それによって,20%程度でも,なおかつ結合水的であるといえる。(3)P_1のビーク面積の対数は含水率に対して,ほぼ直線を呈するので,30%程度までの含水率の測定に応用しうる。5.電子顕微鏡による観察 大豆種子細胞の一般的構造と,含水率による組織の変化とを知るために,それぞれ超薄切片法とアセチルセルローズ2段レプリカ法を用いた。その結果,(1)脂肪顆粒,空胞およびプロティン・ボディが確認された。(2)含水率が20%になると低含水率(5.6%)に比し,レプリカ面上には脂肪顆粒に由来する凸凹はみられず,不規則になる。(3)含水率20%程度で,組織成分と水との結合状態に,やや変化があったと考えられる。6.走査型電子顕微鏡による検索 CATHERINEが小麦ドウの組織観察に走査型電子顕微鏡を用いて以来,この方法が,穀物組織の検索に有用とされているが,著者は前項のレプリカ法の補足に適用した。その結果(1)含水率が20%以下と24.95%以上とでは,組織の破砕面に関して明白な差異が認められた。(2)含水率が20%程度を越えると水の分布と結合状態に変化が生ずると思考される。以上の実験結果から大豆種子中の水の性状の変化点が含水率20%程度にあるという知見を得たが,これは吉田らの,生籾の含水率に対する誘電率が直線を呈するが,21〜22%で屈折するという報告と符合する。不凍水分量に相応する18.68%を,上記の20%の代わりに採用すると大豆種子中の水の性状領域は次のように3区分される。(i)結合水領域(0〜7%,w.b.)(ii)準結合水領域(7〜19%)(iii)自由水領域(19%以上)これは,古賀らの分類法に従って,また(a)localized water domain(0〜5%,w.b.)(b)mobile adsorbed domain(5〜7%)(c)gel domain(7〜19%)(d)solvent water domain(19%以上)の領域4にも分類されうる。豆,穀類の人工乾燥工程上,自由水領域から準結合水領域への移行点前後までの慎重なる対処が,きわめて重要であり,そのことが従来の種々な人工乾燥法の優劣の判定の基準になろう。
- 帯広畜産大学の論文
- 1973-07-20
著者
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