1959年から1989年までの旧ソ連スラブ地域における社会構造とロシア語母語選択率
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概要
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本研究は、ロシア語母語選択と社会的な利益の関係の検証からソビエトにおける言語政策の評価を試みたものである。ロシア語選択を説明する要因として選択した指標は、教育水準、職業構成、年齢構成を中心とする国勢調査データである。対象とする期間を1959年から1989年までに限定し、また対象領域はスラブ系民族共和国を一括したもの、ロシア連邦共和国、ウクライナ共和国の3つに絞って分析を行った。ロシア語を母語とする人口比率を従属変数とし、国民の属性指標(教育水準、労働構成、年齢構成)を因子分析して抽出された諸要因を独立変数とする回帰分析を行い、ロシア語選択と社会構造の関係を検証した。ロシア語母語選択は、いずれの地域においても、またいずれの時点においても高等教育修了者を中心とする社会層よりも、肉体労働者を中心とする社会層との関連が強かった。社会的利益と上記諸要因との関係を検証するために、一人あたりの商品流通額をこれら要因に回帰させたところ、ウクライナ以外の分析は、いずれの時点においても高等教育修了者層との関連が肉体労働層との関連よりも強かった。従って、ロシア語と社会的利益の間に密接な関連は想定できない。ウクライナに関しては、1959年には肉体労働者層と高等教育修了者層の流通額に対する説明率がほぼ同じであり、これが、1970年には肉体労働層が高等教育修了者層を上回るものの、1979年以降は、高等教育修了層が商品流通額を最も良く説明する要因となっていたことが明らかになった。つまり、社会的な利益の配分が肉体労働層から高等教育修了層に移行したことが検出できたのである。従って、ウクライナにおいては、ロシア語選択と社会的利益に一定程度の相関がある時期が存在していたが、社会構造の変化とともに、ロシア語選択と社会的な利益の相関は希薄化したことが想定される。以上の結果から、スラブ地域全体として、ロシア語選択が必ずしも社会的な利益と人為的に関連付けられていたとは云えなかった事実が明らかになったのである。
- 2004-03-22
著者
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