自治体定年退職者の退職後の生活と健康の関連に関する実証研究
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概要
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背景 日本の急激な高齢化の進展に伴い、これまでの要援護者を中心とした高齢者保健福祉対策は、自立した活動性の高い高齢者への支援へとその比重を高めつつある。多くの高齢者は、定年退職を経て、中年期での企業・職域志向型の生活から、高齢期での家族・地域志向型への生活へと、その生活構造を大きく変容させる。特に、私たちは、このことからも、退職後の生活設計には、アクティブ・エイジングの視点から健康問題と社会参加活動とを総合的に捉えることが重要であると考える。アクティブ・エイジングとは、高齢期を非生産的な段階と捉える従来の見方に抗して、R.N.Butlerらにより提唱された高齢者観である。彼は、高齢者も、就労やボランティア活動、家族員への支援などを通して積極的に自立した生活を産出する主体であり続けることができる、社会もそれをサポートすべきだと主張する。したがって、定年退職は、むしろ職業的自我から解放され、より自由で自発的な社会参加が可能になる契機であるとみることもできるのである。その一方で、「ぬれ落ち葉症候群」などの語があるように精神的疎外感を伴うことも指摘されている。そこで、本研究では、現在の日本において定年制が強固な制度として存在していると考えられる地方自治体の定年退職者に焦点をあて、その健康状態、活動性、ネットワーク等の関連を検討することを目的としている。目的 地方自治体退職者を対象に、健康状態と退職後の生活構造の変化、活動性、退職準備行動等との関連性について明らかにする。方法 近畿圏内にある地方自治体の退職者(以下、退職者という)695名に対してアンケート調査を実施し、退職者517名を分析対象とした。健康状態、社会活動参加状況、老化意識尺度、退職準備度、退職後の就労意向および生活変化に関する無記名自記式アンケートを行った。結果 1)退職者は、国民生活基礎調査およびK市の一般退職者に比べて健康状態(健康自己評価、PCCモラール尺度、疾患数)および老化意識尺度において良好な状態にある。2)退職者の健康変数は、社会参加度とはほとんど相関しない。しかし、健康の変数は、強く相関する老化意識尺度を介して社会参加度と相関しており、退職者の社会参加に間接的に影響している。3)退職者の現在の就労率は同年代の中高年者に比べて高いが、就労の有無にかかわらず、彼らは家庭や地域への生活の中心を移行させている。このことから就労者は就労を社会貢献活動の一形態として選択している。4)退職者の退職後の気持ち・行動の変化の因子分析では、「retirement blue」「解放感」「縁」の3因子が抽出された。結論 自治体定年退職者は、良好な健康状態および経済状況であり、就労、地域活動参加など高い活動性を有している集団である。しかしながら、退職後の気持ち・行動の変化では、退職者は、定年退職を新たな人生への契機、職業生活からの解放、あるいは老いの入り口としてのネガティブなライフイベントとして捉えている。今回の調査結果は、日本の社会ではいまだ定年退職に対する価値観が定まっていないことを示唆している。
- 2006-06-30
著者
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堀井 とよみ
滋賀県立大学人間看護学部地域交流看護実践研究センター
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西田 厚子
滋賀県立大学人間看護学部
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筒井 裕子
滋賀県立大学人間看護学部
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平 英美
滋賀医科大学医療文化学講座
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平英 美
滋賀医科大学
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堀井 とよみ
滋賀県立大学人間看護学部
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平 英美
滋賀医科大学
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