水田の水利用形態が生態系に及ぼす影響評価
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概要
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本研究では,水田の利用形態が生物の生息環境に与える影響を評価するため,土地利用形態の異なる水田3筆について,生態系調査を実施した.調査は,水稲が作付けされている通常の水田,輪換耕地,作付けしていない湛水状態の休耕田を対象とした.調査に先立って,調査地区内の土地利用状況を現地踏査した結果,およそ34haの圃区において,水稲が45%を占めており,湛水休耕田は対象地区の東側に多く分布していた.定点観測による生態系調査結果では,どの圃場においてもウスバキトンボが観測されたが,その個体数は湛水休耕田が他の圃場に比べて極端に多く観測された.水田と湛水休耕田においてはコサギが観測され,個体数では湛水休耕田がもっとも多く,長時間観測された.周回踏査による生物の分布調査では,水稲および休耕田では,両生類,微小生物の生息が確認された.いずれの観測においても,湛水休耕田が生物の生息空間として非常に高い機能を有していることが確認された.調査結果をもとに,圃場表面温度の測定結果と生態系の形成状況についてその起因関係についてオーバーレイ分析を行った.日射が水面に直達する湛水休耕田は,表面温度が最も高く,高次消費者も多数確認され,温度の高いエリアに分布する傾向にあった.二次消費者であるトンボ類の調査結果について個体数を圃場毎に比較したところ,トンボが湛水休耕田に好んで集まっていることが確認された.土地利用分布図から,対象地区におけるコサギの行動範囲を予測した.湛水休耕田を中心とした,コサギの一度での移動範囲圏を土地利用図にオーバーレイしたところ,調査地区の東部では,活発な往来が期待されたが,西側の休耕田との間には中継拠点となる場所が無いことから,コサギの行動範囲圏が分断されていることが予想された.対象地区内において,生態系ネットワークを形成するためには,中央部に湛水休耕田を1筆設けることが必要であると推定された.湛水休耕田は,日射,水温,水質等の条件が生物にとって有利であり,生物の生息空間として,また捕食活動の場所として大変有用であることが確認された.湛水状態の休耕田が生物の生息拠点となっており,これらの地点が農村地帯に点在していることで,生態系ネットワークを形成することができると考えられる.The objective of this study is evaluating the effect of the land use condition on the ecological system in the rural area. The field observation was conducted in a 600 ha study site, which is located on the left bank of the Chikugo River in Kyushu Island, Japan. The living thing and ecosystem were investigated in a paddy field, rotated field, and ponded fallow field located in the study site. In the ponded fallow field, many kinds of the living things, including the primary and secondary consumers, can be observed, comparing with in the rotated field, and the food pyramid is formed. The surface temperatures at the study fields were observed using an infrared thermal imaging camera. The relationship between the thermal environment and ecosystem was clarified. The result indicates that the water management affects the ecosystem in the rural area.
著者
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中野 芳輔
九州大学大学院農学研究院
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阿南 光政
九州大学大学院生物資源環境科学府
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大平 裕
九州大学大学院生物資源環境科学府
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弓削 こずえ
九州大学大学院農学研究院
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大平 裕
九州大学大学院農学研究院生産環境科学部門
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