農家管理による水田生態系保全を目的とした小型魚道の開発 (4) : 現地実験による斜水路型および連続堰型魚道の遡上効果の実証
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概要
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本研究は,農村生態系の保全に貢献することを目的とした平板斜水路型魚道,小段斜水路型魚道,連続堰型魚道の遡上効果を,灌漑期の水路を用いた現地実験で検証したものである.水路のエコロジカルコリドーは,堰や落差工によって分断されており,千鳥Ⅹ型魚道などの提案と効果の検証が進められている.平板斜水路型魚道,小段斜水路型魚道,連続堰型魚道の3魚道とも設置に伴う水位や流量の変化は軽微で,灌漑期の平水時では用水管理に与える影響はないものと思われる.平板斜水路型魚道は,保全対象種であるカワムツ類,タカハヤ,カワヨシノポリの遡上率が高く,機会移動型や定住型のカマツカ,カワヒガイ,ドンコ,アブラボテも遡上した.小段斜水路型魚道は,オイカワ以外の遡上率が低かった水路自体が石積みで,隙間が多いことから,魚類の避難,生息場所として好適な環境となっており,放流された魚類は遡上行動ではなく定着または休息を選択したものと思われる.連続堰型魚道は,保全対象種の産卵移動型と索餌移動型の遡上率が高く,保全対象である産卵移動型と索餌移動型の魚種を主とした多様な魚種に対する効果が実証された.現地実験の結果,3タイプの魚道とも,1)保全対象種の突進速度未満の水域が大半で,巡航速度未満の水域も多いことから遡上と休息に適した流況であること,2)オイカワやギンブナなど保全対象種やカマツカやドンコなどが遡上したことから,落差工や三面水路による移動性の対策施設の効果が明らかとなった.また,農作業や水管理に与える影響が少なく,地元農家から好感を得られたことから,今後,国内外で展開が予想される農家や住民参加による水路のエコロジカルコリドー機能の復元などの環境保全活動に適した魚道であると思われる.なお,連続堰型魚道は,地元から設置による溢水の危険性が示された.現地水路は水量制御が困難なことから,実験水路による検証を予定している.今後は,本研究で開発した魚道などを用いて,農業生産性の向上と水田生態系や環境への配慮を両立することにより農村環境の質の向上が期待される.農家や地域住民が一体となって,生態系の保全等に取り組みを支援する環境直接支払いなどの制度の対象となることも考えられる.本研究では,エコロジカルコリドー機能の保全,向上を目的に調査研究を行った農地における生物多様性や生態系の向上を行うためには,さらに水路やため池などの潅概水利施設を軸としたハビタットの評価,プランクトンを基点とした食物連鎖の解析,水や栄養塩などの物質循環などの視点からの検討も不可欠で,クリークや水路を対象とした研究を予定している.The objective of this study is to investigate the characteristics of aquatic animals, especially fishes in the irrigation and drainage channels, during paddy rice growing The effectiveness of settling sloped fish way for both flat type and pool type, and successive weir type fish way in the irrigation channels during irrigation season were studied respect to the easiness of fishes migration. The high migration efficiency of freshwater minnow (Zacco platypus) and other target fishes were obtained. It was concluded that the three types of fish ways presented were effective on recovering the ecological corridor in the irrigation channel networks. Additionally, these three types of fish ways were accepted friendly by the farmers as the fish ways did not impede rice paddy water management. From the results obtained, it would be expected in the future, fish ways will be controlled by the farmers themselves for preserving aquatic environment in the irrigation channel networks.
著者
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中野 芳輔
九州大学大学院農学研究院
-
大平 裕
九州大学大学院生物資源環境科学府
-
弓削 こずえ
九州大学大学院農学研究院
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大平 裕
九州大学大学院農学研究院生産環境科学部門
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柴田 幸二
財団法人九州環境管理協会
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