QLF法およびSEMによって測定したin situ環境下でのエナメル質再石灰化に対する局所的フッ化物応用の影響
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概要
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本研究ではフッ化物の応用がエナメル質初期う蝕試料の再石灰化に与える影響をQuantitative Light-induced Fluorescence (QLF)法および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてin situ環境にて観察した.ウシ抜去歯に研磨処理を施したエナメル質試料を脱灰溶液に1, 2日および4日間浸漬して作製した,3種類の異なる脱灰程度のエナメル質初期う蝕試料を用いた.健康な成人の被験者5名は,4つのエナメル質試料を設置した口腔内装置を装着した.4つのエナメル質試料のうち1試料は未脱灰のエナメル質試札3試料は脱灰程度の異なるエナメル質初期う蝕試料とした.口腔内装置の装着は異なる条件下で3種類の期間,おのおの7日間行った.被験者には,期間1ではフッ化物非配合の歯磨剤を,期間2ではフッ化物配合歯磨剤を用い,1日3回のブラッシングを行わせた.期間3ではフッ化物配合歯磨剤を用いたブラッシングに加え,リン酸酸性フッ化ナトリウム(APF)ゲルをすべてのエナメル質試料に応用した後に口腔内装置を装着した.それぞれの期間の0, 3, 5日および7日目にQLF法による測定を行って,初期う蝕病変の脱灰程度と相関を示すといわれているパラメータであるΔQ値を算出した.SEMによる観察には,口腔内未装着のエナメル質試料および口腔内装着終了後のエナメル質初期う蝕試料を用いた.ΔQ値による比較では,1日および4日間脱灰試料においてフッ化物非配合歯磨剤群,フッ化物配合歯磨剤群,フッ化物配合歯磨剤+APF群の間に差は認められなかったが,2日間脱灰試料ではフッ化物配合歯磨剤+APF群における再石灰化程度はフッ化物未配合歯磨剤群よりも有意に低く(p<0.05),APFの応用によりエナメル質初期う蝕試料の再石灰化の程度が減少していることがわかった.SEMを用いたエナメル質微細構造観察において,フッ化物配合歯磨剤群のエナメル質初期う蝕試料は,フッ化物未配合歯磨剤群と比較するとエナメル小柱間隙の拡大や結晶配列の乱れが1, 2日および4日間脱灰試料のいずれにおいても少なく,フッ化物配合歯磨剤の応用によりエナメル質初期う蝕試料の表層における脱灰程度が減少していることがわかった.フッ化物配合歯磨剤+APF群のエナメル質初期う蝕試料では1, 2日間脱灰試料の表層に沈着物が一面に付着している様子が,4日間脱灰試料では沈着物の量が減少している様子が観察された.以上の結果より,脱灰の程度によってはAPFを応用することで初期う蝕における再石灰化は阻害される可能性があり,フッ化物を応用することによって起こる表面性状の変化が,初期う蝕の再石灰化に影響を与えることがわかった.すなわち,初期う蝕に対する再石灰化処置を行う際には,初期う蝕の脱灰程度をQLF法などにより評価した後に,結果に対応したフッ化物応用をする必要があることが示唆された.
- 有限責任中間法人日本口腔衛生学会の論文
- 2007-01-30
著者
-
川崎 弘二
大阪歯科大学口腔衛生学講座
-
神原 正樹
大阪歯科大学口腔衛生学講座
-
高島 隆太郎
大阪歯科大学大学院歯学研究科口腔衛生学専攻
-
神原 正樹
大阪歯科大学
-
高島 隆太郎
大阪歯科大学
-
川崎 弘二
大阪歯大・大学院・口腔衛生
-
川崎 弘二
大阪歯科大学
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