マウスの乳腺発達および泌乳能力に及ぼす環境温度の影響に関する研究
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概要
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妊娠中のマウスの乳腺発達に対する環境温度の影響を知るために, マウスを低温(7℃), 適温(20℃)および高温(33℃)の各温度区で, 膣栓形成の日より7日目および16日目まで温度処理を行ない, 乳腺中の核酸含有量および乳腺ホールマウント標本により発達の程度を比較した.その結果, 乳腺中の総DNA量および総RNA量は, 妊娠16日目に20℃区に比べて, 7℃区および33℃区がいく分低下の傾向を示したが, 妊娠7日目および16日目のいずれにおいても温度処理間に有意の差は認められなかった.また, 妊娠7日目に対して妊娠16日目の値を, 各温度区ごとに比較すると, いずれの区においても, 総DNA量で100〜130%, 総RNA量で140〜200%の増加を示した.ホールマウント標本では妊娠の経過に伴う乳腺の発達はよく認められたが, 各妊娠日時における温度処理間の差異はほとんど認められなかった.以上のことから, 本実験の温度範囲では乳腺発達は環境温度によってあまり大きな影響を受けないものと考えられる.乳腺発達に関与するホルモン群と環境温度の変化との関係を明らかにするために, 成熟卵巣除去マウスに卵胞ホルモン単独あるいは黄体ホルモンと併与し, 低温(7℃), 適温(20℃)および高温(33℃)の温度区で飼育した.これらのマウスは, 14日間温度処理した後にと殺し, 腹部およびそ径部乳腺中の核酸含有量および右側胸部第3乳腺のホーマウント標本により発達の程度を比較した.その結果, ホルモン処理間では総DNA量および総RNA量に有意の差が認められ, 卵胞ホルモンを単独投与した場合よりも黄体ホルモンと併与した方が高い値を示した.卵胞ホルモンと黄体ホルモンの比率は1 : 250のものが1 : 500のものより高い値を示した.温度処理間では全体的に差を認めなかったが, 卵胞ホルモンと黄体ホルモンの比率が1 : 250の区においてのみ33℃区の総DNA量が20℃区のものよりも有意に低下した.このことから, 環境温度は乳腺発達に対して大きな影響を持たないが, 影響が現われる場合は主として高温区において, 乳腺胞形成の時期にマイナスの影響として現われるものと推定された.ホールマウント標本も核酸含有量とほぼ同様な傾向を示したが, 卵胞ホルモン投与区と対照区の比較において, DNA量では両者間の差がほとんど認められなかったが, ホールマウント標本では, 卵胞ホルモン投与区の乳管の発達が明らかに対照区にまさっていた.マウス泌乳能力に対する高温環境の影響の程度, とくに乳期との関係を知るために, 分娩時から離乳時までの泌乳能力に対する高温環境の影響を, 子体重, 乳腺中の核酸含有量および総窒素含有量を指標として追求した.その結果は次の通りである.1)子マウスの体重は20℃区の方が33℃区よりすぐれていた.2)体重10g当たりの乳腺中の総DNA量は, 泌乳7日目がもっとも高く, 10日目以後少しずつ低下したが, 温度処理間では差が認められなかった.3)体重10g当たりの乳腺中の総RNA量および総窒素量は, 分娩時からしだいに増加し, 泌乳10日目および14日目がもっとも高く, 離乳時には分娩時と同じ水準にもどった.温度処理間では泌乳盛期の10日目および14日目で差が認められ, 20℃区が33℃区より高い値を示したが, 他の時期では差が認められなかった.4)母マウスの体重は, 20℃区では分娩時から泌乳盛期の14日目まで増加の傾向を示し, 離乳時の21日目には分娩時の水準にもどった.一方, 33℃区のものは分娩時より減少する傾向を示した.以上のことから, 高温環境はマウスの乳腺実質量にはほとんど影響を及ぼさないが, 泌乳機能に対しては, とくに泌乳盛期にマイナスの効果を及ぼすものと推察された.環境温度の変化に伴う乳量変化の原因を追求するために, 環境温度, 採食量および泌乳能力の相互関係を検討した.マウスを低温(7℃), 適温(20℃)および高温(33℃)の環境温度で分娩時から泌乳14日目まで飼育した.その間, 採食量や飲水量を計量し, 子体重, 乳腺中の総DNA量, 総RNA量およびRNA/DNAを, 泌乳14日目に, 泌乳能力の指標として測定し, 温度処理間の比較を行なった, その結果は次の通りである.1.乳腺中のDNA量には環境温度の違いによる変動はほとんど認められなかった.RNA量では20℃区に比較して7℃区では21.4%, 33℃区で35.0%の低下がみられ, またRNA/DNAにおいても20℃区に比べ, 7℃区, 33℃区は共に約20%の低下を示した.2.各温度区における泌乳マウスの分娩時から泌乳14日目までの総採食量は, いずれも低温区で多く, 高温区で少なかった.また, 泌乳マウスは泌乳盛期に分娩当初の2〜3倍の採食量を示した.泌乳マウスについて温度処理間の総採食量の違いを検討すると, 20℃区のものと比較して, 7℃区は15.6%増加し, 33℃区は20℃区の58.1%に過ぎなかった.
- 鹿児島大学の論文
- 1971-09-25
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