教育臨床におけるコミュニケーション分析の試み(III) : 教師の内省が子どもの行動に及ぼす影響
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概要
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言語障害学級,通称ことばの教室における教師と子どもの相互交渉の分析に関する二つの論文において,我々は,1)子どもにとって辛い経験の根元である,吃音に関する感情を感じとるためには,声の調子,表情,体の方向など子どもの非言語的表現が重要であること,2)教師が,子どもの感情を理解できると,子どもは自分のいやな経験について話し始めることを報告した。本研究においても,教師と子どもの相互交渉を,教師の内省が子どもの行動にどのような影響を与えるかという観点から,コミュニケーション分析を続行する。教師Bは,大学で障害児教育は学んだものの,はじめてことばの教室の担任として赴任した20代前半の女性で,今までに吃音のある子どもの指導をした経験はない。A児は,自分の吃音に気づいている2年生の男児である。18ヶ月に渉り41回の通級指導が実施されたが,その間,A児は,引越しによる転校,弟が重病で入院し母親が弟の看病にかかりきりだったという大変な経験をしている。VTRで記録された言語指導,各セッション後,インタビュー,電話,メモによって得られたB教師の内省が,クラス担任との交換ノートとともに比較・分析された。結果は,教師Bによって設定された目標つまり,吃音をもつ子どもたちが肯定的な自己評価を育むための必要条件と考えられる,「自分の吃音について話すようになること」との関連で考察された。本研究において明らかになったのは以下のことである。1.教師Bの臨床教師としての知識や技術は未熟であっても,子どもの真のニーズに応えようとすることによって,子どもAに望ましい行動の変化が出現する。2.子ども主導型の指導は,教師-子どもの相互関係を改善する役に立ち,結果として,子どもは吃音について話し始めるようになった。3.教師Bは,ことばの教室に新任教師として赴任し,吃音をもつ子どもの指導に自信のないなかで,教科書を読む,研究会や研修会への出席する,先輩のアドバイスを求めるなど,最大の努力を払った結果,質の高い臨床教師へと成長した。
- 日本橋学館大学の論文
- 2005-03-30
著者
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