熱帯・温帯アジアにおけるオヒシバの生活史 : アンケートおよび現地調査報告
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
雑草のなかには熱帯から温帯を通じて広く分布し、各地で農耕地の主要雑草となっている種がある。これらは日本などの温帯地域での生活史から、一般に夏生一年草とみなされているが、熱帯・亜熱帯での生活史は十分把握されていない。著者らはこれらの雑草の特性の正しい理解のためには、分布地帯全体にわたる生育の実態を知ることが先決と考え、まずオヒシバについて、アンケート調査および若干の現地調査を行った。アンケート調査は、アジア地域の148の農業普及機関および研究機関を対象に実施し、その結果は、吉良の温量指数、乾湿指数をもとに、4地域に区分して(Fig.1)集計した。それらの地域はA(温帯一日本(九州以北)、韓国)、B(亜熱帯一日本(南西諸島)、台湾)、C(熱帯・乾季明瞭一タイ大陸部)および(熱帯・乾季不明瞭一南タイ、半島マレーシア)である(Fig.2)。オヒシバの生育期間は、A地域では春から秋であり、12〜2月には全くみられなかったのに対し、 B、 C、 Dの各地域では通年生存が認められた。ただし、B地域では高温期に、C地域では雨季に多かったのに対して、D地域では多くの地点で一年中みられた。また、熱帯(C、 D地域)ではオヒシバの発生、出穂個体ともに通年みられたが、C地域では発生は雨季の前期を、出穂個体は雨季の後期から乾季の始めをピークとして増減した(以上Fig.3)。A地域とB地域の境界付近に位置する種子島、屋久島、喜界島、奄美大島、加計呂麻島(北緯30〜28°)では、4月において越冬個体とみられる多数の枯れた分けつをもっ大型株が観察された(Fig.4)。このことから、オヒシバは北緯31°付近を境にして、それ以南では1年中生育が可能であることが明らかになった。オヒシバの生育地は非農耕地および多種多様な樹園地、作物畑、野菜畑にわたっていたが、雑草として最も問題になっていたのは野菜畑であった(Table 1)。また、熱帯・亜熱帯では温帯におけるよりも、より有害で防除困難な雑草とみなされており(Fig.5、 Fig.6)、その理由として、これらの地域では除草剤の普及率が低いこととともに、オヒシバ自体の生育特性の違いが推察された。以上の調査結果は、オヒシバについて温帯から熱帯にかけての気候変化に適応的な変異の存在を示唆しており、今後この点に関しての実験的究明が必要と考えられる。
- 日本雑草学会の論文
- 1995-02-10
著者
関連論文
- ホテイアオイの水抽出物および枯死・分解物の植物生育阻害作用
- 雑草制御を目的としたシロクローバ植被の維持管理に及ぼす刈取体系の影響
- クローバ植生と雑草植生の刈取作業能率の比較
- 雑草制御を目的としたシロクローバ植被の育成における播種法と刈取の影響
- 20 クローバ草生被覆管理の群落生態学的研究 : 2. 定着後の刈取等とクローバ群落の維持
- 19 クローバ草生被覆管理の群落生態学的研究 : 1. 導入条件及び初期の刈取と群落構成
- 63 シロクローバ草生柑橘園における多年生雑草の消長
- 19 カンキツ園のクローバ草生事例と草生量の変動要因の解析
- 73 クローバ草生による果樹園の雑草管理について : 園内の環境条件がクローバの定着に及ぼす影響
- 駐車場芝生化 : その意義と技術
- 芝生におけるヒメムカシヨモギおよびオオアレチノギクの発生生態に関する研究 : 種子散布時期との関係
- のり面緑化用植物としてのチガヤの形質の系統間比較
- オオバコの種生態学的研究 : 神社仏閣境内にみられる矮小型オオバコの形態的特性
- 95 熱帯から温帯アジアにおけるオヒシバの生活史の変異 : 第2報 : フェノロジーと種子休眠
- 94 熱帯から温帯アジアにおけるオヒシバの生活史の変異 : 第1報 : 現地での生育の実態
- 110 新規除草剤cyhalofop-butylに対するイネ科種間の感受性の相違
- 45 ヒルガオ属多年生雑草2種の生態的特性に関する研究
- コヒルガオおよびセイヨウヒルガオにおける2,4-Dおよびグリホサートの移行性について
- 8 コヒルガオおよびセイヨウヒルガオにおける2,4-Dおよびグリホサートの移行性について
- コヒルガオおよびセイヨウヒルガオの生育段階による茎葉処理剤の効果
- 62 コヒルガオおよびセイヨウヒルガオの生育段階による茎葉処理剤の効果の差異
- 熱帯・温帯アジアにおけるオヒシバの生活史 : アンケートおよび現地調査報告
- 109 コヒルガオおよびセイヨウヒルガオの地下器官系に及ぼすグリホサートおよび2, 4-Dの影響
- 87 Creeping rootをもつ多年生雑草の栄養繁殖特性の比較研究 (2) : 芽の形成・萌芽と再生力
- 86 Creeping rootをもつ多年生雑草の栄養繁殖特性 (1) : 根系の形態
- 果樹園の雑草管理に関する基礎研究
- 果樹園の雑草管理に関する基礎研究
- 第10回アジア・太平洋雑草学会議に出席して
- 非農耕地の雑草とその管理
- 樹園地の雑草木制御をめぐる諸問題
- 果樹園内日照条件の相違が下草群落組成に及ぼす影響
- 除草剤の連用が開墾畑ミカン園の下草植生に及ぼす影響
- メヒシバ幼植物及び成植物の作物に対するアレロバシー能の検定
- キレハイヌガラシの栄養繁殖について
- ギシギシの地下部切断片の再生力について
- 36 畑地におけるスギナ地下部の動態について : 予報
- 鉄道敷の雑草管理に関する研究 : 第1報 優占雑草の種類とその分布
- 2,4-D処理及び細断処理後のホテイアオイの枯死・分解が水質に及ぼす影響
- 敷草雑草からの溶脱成分の生物活性
- 種子散布のための棘を失ったタウコギの変異型
- 9 ワルナスビの地下器官系の分布拡大様式
- 8 ブタナの生活史特性
- P15 樹木のもつ雑草制御機能 2. : 樹幹流下土壌からの雑草の発生と成長についての樹種間比較(1-(3)雑草害、競争、他感作用)(1. 雑草)
- P14 樹木のもつ雑草制御機能 1. : 樹幹流下土壌の生理的特徴についての260樹種間の比較(1-(3)雑草害、競争、他感作用)(1. 雑草)
- ヒルガオおよびコヒルガオのクローン識別のためのマルチローカスDNAフィンガープリンティングの適用
- 124 ヒルガオおよびコヒルガオのクローン識別のためのマルチローカスDNAフィンガープリンティングの適用
- 果樹園の雑草管理に関する基礎研究 : 除草剤処理による雑草植生の変遷
- 28. 造成地の植生管理に関する研究 : 除草剤の特性と処理後の雑草群落の動態
- 46. 果樹園における雑草管理に関する基礎研究 : 雑草調節と2, 3の除草処理について
- 29 アメリカアゼナおよびタケトアゼナにおける帰化年代および分布拡大速度の推定 : 標本および現地調査を元にして
- 49 種子散布のための棘を失ったタウコギの変移型
- 40 多年生雑草ワルナスビの乾物分配特性と刈り取りに対する反応(1-(2)生理、生態、形態)(1. 雑草)
- 81 西アフリカのサバナ帯に産するイネ科雑草6種の種子発芽特性
- 西アフリカのサバナ帯に産するイネ科雑草6種の種子発芽特性
- 68 ヒルガオおよびコヒルガオの生態的特性からみた生育地の違いについて
- ホテイアオイ(Eichhornia crassipes (Mart.) Solms)の生育及び繁殖に関する研究 : 第2報 水中の窒素形態の差異が生育ならびに繁殖に及ぼす影響
- ホテイアオイ(Eichhornia crassipes (Mart.) Solms)の生育及び繁殖に関する研究 : 第1報 水中の栄養塩が生育及び繁殖に与える影響
- 果樹園の雑草管理に関する基礎研究 : 日照条件の相違が下草群落に及ぼす影響
- 65. 水生雑草ホテイアオイに関する研究 : III 生産量および群落構造の実態調査
- 37. 果樹園の雑草管理に関する基礎研究 : 地表面被覆状態の相違が雑草、地温ならびに土壌水分に及ぼす影響
- 30. 水生雑草ホテイアオイに関する研究 : II. 窒素形態の差異が生育に及ぼす影響
- 65. 水生雑草ホテイアオイに関する研究 : I. 塩類要求性について
- 35. 果樹園の雑草管理に関する基礎研究 : 刈取りとメヒシバの発生消長について
- 34. 果樹園の雑草管理に関する基礎研究 : 落葉果樹園における夏季の下草群落の実態
- 2,4-D及びアメトリン処理後のホテイアオイの枯死・分解が水質に及ぼす影響
- 雑草草生がリンゴ樹の根群の発達と分布に及ぼす影響
- 開花前の栄養がブドウの花房の発育と結実に及ぼす影響(第3報) : 窒素施用時期の影響
- "Symposium on Biology and Management of Weed and Fourth Tropical Weed Science Conference"に出席して