ピリブチガルブのイネ科植物脂質代謝系に及ぼす影響
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概要
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除草剤ピリブチカルブ(O-3-tert-butylphenyl 6-methoxy-2-pyridyl (metyl) thiocarbamate) の作用機構を明らかにする目的で,各種作物および雑草の水耕条件下でのピリブチカルブに対する感受性を検討し,さらに植物の主要代謝系に及ぼす影響を調べた.まず水耕条件下における根部処理による生育試験で,ピリブチカルブの選択性を検討した.広葉植物としてダイズ (Glycine max L. cv. Suzunarihakuchou) およびキュウリ (Cucumis sativus L. cv. Shimoshirazujibai) を供試したが,全体的にピリブチカルブに対して耐性を示した.これに対してイネ科植物のピリブチカルブに対する感受性はそれぞれ異なり,ヒエ (Echinochloa oryzicola Vasing.),トウモロコシ (Zea mays L. cv. Honeybantam)およびメヒシバ (Digitaria adscendens Henr.) は強い感受性を示したが,イネ (Oryza sativa L. cv. Nipponbare) は耐性が大きかった (Fig. 1).ピリブチカルブは水耕根部処理により,茎葉部よりも根部の生長を強く阻害した.選択性を検討した植物の中からピリブチカルブ感受性植物であるトウモロコシを植物材料として選抜し,植物主要代謝系に及ぼす影響を調べた.トウモロコシ幼根に,各代謝系に特有な^<14>C 標識前駆体5種をそれぞれピリブチカルブ (10^<-6> M, 10^<-7> M) 存在下に投与し,植物体への吸収および各代謝系への取り込みを調べることにより,ピリブチカルブの植物代謝系に及ぼす影響を検討した.ピリブチカルブは,用いた^<14>C標識前駆体の内,脂質生合成系前駆体である^<14>C-酢酸の根端部への吸収および脂質画分への取り込みを最も強く阻害した.ピリブチカルブ10^<-6> M,処理時間120分におけるトウモロコシ根端部への^<14>C-酢酸吸収の阻害率は15.2%であり,脂質画分への取り込みの阻害率は23.7%であった.他の^<14>C標識前駆体である,チミン (DNA),ウラシル (RNA),ロイシン (タンパク質),グルコース (細胞壁) の吸収および取り込みへの影響は明確に認められなかった (Table 1).脂質生合成阻害剤として知られるセルレニン5×10^<-5> M との処理時間120分における比較では,根端部への吸収阻害はピリブチカルブの方が大きく,脂質画分への取り込み阻害はセルレニンの方が大きかった (Fig. 2).これらの結果から,トウモロコシ根端部中主要代謝系の内で,脂質生合成系がピリブチカルブに最も感受性であることが示唆された.^<14>C-酢酸の取り込み実験で得られたトウモロコシ根端部の脂質画分について,TLCを用いて構成成分を検索したところ,スクワレンに相当するスポットを検出した (Fig. 3, Fig. 4).スクワレンについて,放射能量および脂質画分総放射能に占める比率の経時変化を求めた.その結果,ピリブチカルブ存在下では^<14>C-酢酸から生合成されたスクワレンが経時的に増加蓄積し,ピリブチカルブ10^<-6> M 処理の120分後では脂質画分総放射能量の4割程度を占め,10^<-7> M処理でも3割強を占めることが確認され,明らかにスクワレン代謝の阻害が認められた.一方無処理根部では,^<14>C-酢酸から生合成されたスクワレンが,代謝されて経時的に減少する様子が認められた (Fig. 5).以上の実験結果から,ピリブチカルブが脂質生合成系の内で,スクワレン以降の生合成系を阻害している事が示された.特にスクワレンの蓄積が短時間内かつ低濃度処理で認められる事より,スクワレンエポキシダーゼを阻害している可能性が考えられた (Fig. 6).
- 日本雑草学会の論文
- 1993-05-28
著者
-
臼井 健二
筑波大学応用生物化学系
-
森中 秀夫
東ソー株式会社化学研究所
-
続木 建治
東ソー株式会社化学研究所
-
松本 宏
筑波大学応用生物化学系
-
石塚 皓造
筑波大学応用生物化学系
-
石塚 皓造
筑波大 ・ 応生
-
北村 洋一
東ソー株式会社化学研究所
-
森中 秀夫
Nan-yo Research Laboratories Tosoh Corporation
-
続木 建治
Nan-yo Research Laboratories Tosoh Corporation
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