ミズギボウシの花部生態学及び生殖生物学的研究
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概要
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ミズギボウシは西南日本の湿地に生育するユリ科の多年草であり, 樹冠が密閉された暗い林床にも, 高木がほとんどない疎開地にも見られる。岐阜県南部の2カ所の林床集団と3カ所の疎開集団で, 花部生態学及び生殖生物学的調査を, 近縁なコバギボウシとの比較をしつつ行った。ミズギボウシは8月中旬から9月中旬にかけて開花し, ぽつりぽつりと咲いて明確なピークがない。一個体に着く花は平均2(林床)から3個(疎開地)で, コバギボウシ(平均9個)やオオバギボウシ(平均27個)よりずっと少ない。個々の花は雌雄同熟性で, コバギボウシ等と同様に1日咲いているだけだが, 午後の早い時間にしおれ始め, 寿命はより短い。ミズギボウシの花はコバギボウシ等のものより小さく, 雌蕊は雄蕊とほとんど同長である。疎開集団ではトラマルハナバチとコシブトハナバチの1種が訪れ, 葯の上に止まってから花の中に入り, 子房の先に分泌される花蜜を吸う。柱頭は葯の近くにあるので, 自花花粉が柱頭に付着する機会が多い。花粉を集めに来る小型のハナバチも柱頭によく触れる。一方, 林床集団ではハナバチはほとんど見られず, 小型のハナアブが花粉を求めて訪れる。これらのハナアブも柱頭に触れることが多い。ミズギボウシは自動的自花受粉を幾らかすると共に, これらのポリネーターによる自花受粉をかなり行っているものと思われる。他殖性のコバギボウシ等は自家和合性が低いのに対して, ミズギボウシは高い。大型のハナバチが吸蜜に訪れる疎開集団の花はコバギボウシと同じくらいの量の花蜜を分泌し, それらが訪れない林床集団ではほとんど分泌しないという, 対応関係がみられた。疎開集団の自然条件下での結実率が林床集団より高いことから, 自殖率が高いと予想されるミズギボウシでも, 花蜜は生殖成功に貢献していると考えられる。
- 1993-08-30
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