近年のダンテ学における「定説」の周辺
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概要
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「ダンテは貴族の子孫であると自称した。『天国篇』の中で、彼は自分の先祖カッチァグイダが皇帝から騎士の位を授けられて、十字軍で死んだと主張しているのである。この一族の初期の歴史は曖昧だが、これはありそうもない話のように思われる。彼の父親も叔父も共に金貸しをしており、彼の姉妹の一人は金貸しと、もう一人は市の触れ役(town-crier)と結婚している。実際には、アリギエーリ家はフィレンツェの小身の一族(minor Florentine family)であり、ダンテの父親の代に高利貸しによって(by usury)小金をため、田舎に地所を買い、つい先頃(recently)社会的体裁を整えたもののようである。」最初から興味本位の引用を行わせていただくが、これは一九七一年ニューヨークで出版されたJ.ラーナー著『一二九〇年より一四二〇年までのイタリアにおける文化と社会』の一節である。内容的にかなり興味深い書物でもあり、すぐれた監修者によって編纂された叢書の一巻でもあるが故に、その中でダンテが貴族の子孫だったという事実が「ありそうもない話のように思われる」(It seems unlikely story.)ときめつけられると、『天国篇』におけるカッチァグイダの存在が架空のものであったという有力な証拠でも現れたのではないかという不安に駆らざるを得ない。それでは、近年のダンテ学-特にいわゆるイタリア・アカデミズムの「定説」は、一体ダンテの出身階級をどのように規定しているのであろうか。先ずこうした好奇心にもとづいて、私はいわば「定説」の集大成ともいうべき文学史講座や概説書の類(スカルタッツィーニが前世紀末に『ダンテ学』という標題をつけて出版した書物に類するもの)で、まだ「歴史的名著」にまで祭り上げられていない、現在学生の入門書や概説書、あるいは研究者のハンドブックとして実際に利用されていると思われるものを、何種類か集めて検討してみることにした。それらを列挙すると以下の通りである。
- 1979-03-03
著者
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