気液並流系多孔板段塔の多段連続培養槽としての性能 : (IV)培養系を用いた場合の段塔内流動のモデル化
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概要
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諸言 前報までに, 本段塔の基本的な特性について報告して来た。特に, E. coliを培養した時, 連続定常状態で菌令の分布が下段から上段へと, 培養液の滞溜時間に対応して認められたことを記した。しかし, これは培養液組成を, グルコース0.1%を制限基質としており, 稀薄であるため実際の生産的な培養条件とはかなり異なっている。本報では, グルコース1%, 酵母エキス1%を主成分とする培地で培養を行なった結果をもとにして, 逆混合の存在, 培養液泡表面への細菌吸着を測定し, 実際の培養上考慮すべき問題点とした。さらに, これら二つの因子を段塔の全体として菌体に着目した場合の流動特性を示す数式モデルに取り入れ, これら2因子の変動によって, 菌体の滞溜時間分布がどのように変るかを, アナログコンピューターでシミュレートして見た。これより, 本段塔装置で連続培養を行なう際に流動特性を予想することが可能となる。実験結果および考察 グルコース1%, イーストエキス1%, KH_2PO_4 0.1%, MgSO_4・7H_2O 0.05%, アデカノール0.05%を含むpH6.9の培地で, E.coliを, 4段に区切った塔内で3段までを使って回分培養した。増殖経過を見ると, 最下段で最も菌濃度が高く, U.O.Dとして4.2であったが, 最上段では2.7程度と著しい差が認められた。この現象に対する原因としては, 種々の考察がなされうるが, ともかく, 多孔板を介して逆混合の存在することおよび培養液本体と泡上における菌濃度差(foam depletion)によるものが最も支配的であると考えた。逆混合に関しては, 水, 空気系では2mm孔径多孔板を設置した場合にはほとんどなく各段槽が独立したものとして取り扱えることを記したが, 同時にまた, 液の表面張力を低下させると, その独立制が低下することをも報告した。実際の培養液では, この他, 発泡による逆混合の増加も予想されたので, 2段の段槽を組立て上段に菌体懸濁液をトレーサーとして注入し, 下段へのトレーサー移動を通気条件下で回分, 連続状態で測定し, 下段への移動速度と液の上部への供給速度との比を逆連合率 : αとして表現した。この実験でも, 水-空気系では逆混合は全く存在しなかったが, イーストエキスを1%含む培地では発泡とともに, 多孔板を介しての混合が認められた。泡での菌濃度は短時間に通気を行ない, 容器内で発生した泡を捕集して, 消泡後菌濃度を測定し, 原試料の菌濃度との比 : βをもって表現した。通常βは0.6〜0.8の範囲にあった。すなわち, 泡での菌濃度は, 培地本体のそれよりも低いことを示す。以上より, 本段塔で連続培養を気液並流系で行なうと, 供給された培養液は多孔板で仕切られた段槽を順次, 上部へ移動するが, その際多孔板の設置で生じた多孔板下の空気を泡の状態で上昇する。また逆に, 上部段槽からは, 液本体が逆混合によって下降してくるというmicroscopicな流動を包含しつつ, 全体とし液は上段へ流動している。したがって, 泡によって上段へうつされる菌濃度と, 下段へ液本体によって運ばれるそれとは, foam depletionによって0.6〜0.8程度の割合で差があり, ここに菌細胞自身の滞溜時間分布と, 培養液の滞溜時間分布には差が生ずることが考えられた。そこで, 前記αおよびβの二つのパラメーターを考慮に入れて, 本段塔内での菌体の流動に着目して, 各段槽での物質収支式をたてた, すなわち, 第一段目 V_1((dX_1)/(dt))=FX_0-F(1+α)βX_1+FαX_2…(1) 第n段目 V_n((dX_n)/(dt))=βF(1+α)(X_<n+1>+X)+Fα(X<n+1>-X_n)…(2) Vは液量(l), Fは流量(l/hr), Xは菌濃度(U.O.D./ml)である。これをn=6についてアナログコンピューターを用いて, α=0〜1.5,β=0.8〜1.2の範囲で解き, 滞溜時間分布曲線を求めた。これより実際の場合, 2段々槽によって対象にせんとする発酵についてαを測定し, また別に, 泡における菌濃度を測定してβを求めることによって, その発酵を行った時の滞溜時間分布を予測することができる。
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1969-06-25
著者
-
尾崎 浅一郎
三楽オーシャン株式会社:中央研究所
-
北井 淳夫
三楽オーシャン株式会社, 中央研究所
-
五嶋 慎治
三楽オーシャン株式会社・中央研究所
-
北井 淳夫
三楽オーシャン株式会社:中央研究所
-
北井 淳夫
三楽オーシャン(株)
-
五嶋 慎治
三楽オーシャン(株)中央研究所
-
五嶋 慎治
三楽オーシャン株式会社:中央研究所
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