気液並流系多孔板段塔の多段連続培養槽としての性能 : (I) Wash outと塔内における増殖相の分布について
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概要
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諸言 連続醗酵は基質損失を少なくし生産物濃度を上げるとともに生産性を高めることが要求されるが, この目的を達成するためには、多段連続発酵が望ましいことが理論的にも, また実験的にも示されている。さらに, 化学反応ではその反応の次数, 反応の機構などによって反応装置の最適化が行なわれ, 完全混合槽からplug flowの特性をもつ反応槽まで, 多様な装置設計が行なわれている。しかしながら, 発酵の領域ではほとんどその反応が完全混合槽で行なわれており, 実用的な意味で, plug flow発酵槽は開発されていない。工業的に多くの発酵が好気発酵であり, 多量の通気を必要とするので, plug flowに近い流動特性を一つの装置で得ることの困難さが, このような形式, 特性をもつ発酵槽の開発を遅らせていたと考えられる。この報告では, 新しい形態の塔形の発酵槽を作成し, それを用いて行なった培養工学的な実験について記した。この結果から, この装置は一つの塔で, 多段培養槽と全く同じ性能を有することが結論された。装置 直径7cmの塩化ビニール製円筒内に, 10cm間かくに多孔板を10段装置した。多孔板には孔径2mmの孔を開口率10%であけた。この多孔板によって円筒が10段に仕切られたことになる。塔の最下部には, 空気供給用のスパージャーと培養液供給用のノズルを装備し, 塔上部には, 空気排出口と発酵液の溢流口を設けた。したがってこの装置では, 空気と培養液の流れは並流である。その他, 温度調節, 培養液供給用定量ポンプなど通常連続培養に必要なものを設備した。実験結果と考察 E. coliをグルコース0.1%を制限基質とする培地で好気的に培養を行った。液量は2.8〜3.1l, 通気量は4l/minとした。まず, 塔内に多孔板のない一様な気泡塔として連続培養を行なった。稀釈率D=0.775hr^<-1>の条件で定常状態値, U.O.D=0.82,菌体内RNA含量1.30mg/U.O.D.を得た。この稀釈率では塔内が均一である場合にはwash outは起らなかった。次に, 多孔板(2mm孔径, 開口率10%)を装置し全塔を10段として, 全く同じ条件で連続培養を行なった。この時の稀釈率は, 塔内全体の培養液量から計算して0.605hr^<-1>であった。培養液の供給が開始されてから, まず, 最下段段槽で菌濃度の減少が認められ(wash out), これが順次上段に移行していくのが認められた。最上段で, 培養液供給開始に対する応答が得られたのは約1,2時間後であった。菌濃度の減少は定常状態に達せず, wash outの状態が継続した。この現象は, 多孔板で仕切った各段槽が, 独立しており, 各段槽での稀釈率が, 本菌の最大比増殖率を超えるような状態になったために起ったものと考えられた。同様に塔内を10段に仕切り稀釈率0.3hr^<-1>で連続培養を行なった。この場合, 各段槽が独立しているとしても, 各々の段槽での稀釈率は約3.0hr^1となり, この菌の比最大増殖率よりわずかに低かったので, 定常状態が得られた。この時は, 培養液の供給口に近い最下段で最も菌濃度が低く, 溢流口に近い上段へ行くほど, その濃度が増加するように各段槽に濃度分布が認められた。各段における菌体内RNA含量を分析したところ, 最下段において最も含量の高に菌体が存在し, 順次上段へ行くに従って, それが減少した。この事実は, 定常状態で認められた菌濃度のgradualな分布が, 菌の増殖相に対応するものであることを示すものと考えられた。したがって, 下段から送入される培養液の塔内における滞溜令にほぼ相当する菌令分布が, 一つの装置内で下段から上段へと得られたものと考えられた。このような気液並流系多孔板段塔発酵槽の特徴から, 種々の培養工学的, あるいは反応工学的応用例が予想された。
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1969-06-25
著者
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刀根 弘
三楽オーシャン株式会社・中央研究所
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尾崎 浅一郎
三楽オーシャン株式会社:中央研究所
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北井 淳夫
三楽オーシャン株式会社, 中央研究所
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北井 淳夫
三楽オーシャン株式会社:中央研究所
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北井 淳夫
三楽オーシャン(株)
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