木材炭化に関する研究(第18報) : 木材セルロースの熱分解
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概要
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本報告は2部に分けた。第1部ではアラカシ材から異なる方法で単離したセルロースの熱分解について報告し, 第2部は起源を異にするセルロースの熱分解を比較した。第1部では木材からリグニンのみ除去された形のホロセルロースの乾溜は既往文献に見出されず, これを試みた。またこれからアセチル基を除いた1% NaOH処理ホロセルロースも乾溜に附した。従来の木材セルロースの乾溜実験はCROSS-BEVANセルロースについて行われているので, 著者等もCROSS-BEVANセルロース及びその1% NaOH処理残渣の乾溜を行い検討した。アセチル基の多いホロセルロースの熱分解経過は木材の経過に近似し, 1% NaOH処理により240℃附近の溜出液量, 酸濃度, 酸量の山が消え失せることは木材についてと同様であり, アセチル基が木材乾溜において多量の酢酸の源であるという著者の考え方に一つの証拠が与えられた。アセチル基の少ないCROSS-BEVANセルロースの熱分解経過はむしろ1% NaOH処理木材の経過に似て, 溜出液量, 酸量の240℃附近の山が現われない。酸の収量は第1表に示すように既往の文献より若干多い。しかし第2表に示すように, アセチル基を差引けば, 著者の得た綿セルロースの場合の酸収量に近く, 実際に1% NaOH処理CROSS-BEVANセルロースの酸収量は, 誤差を考えれば綿セルロースの酸収量に略々等しいといえよう。さてこの試料には多量のペントーザンが含有され, 綿セルロースとの比較において, ヘミセルロースの有力酢酸源説の矛盾が現われている。またKLASON等の知つた綿セルロースと木材セルロース, 針葉樹材セルロースと広葉樹材セルロースとの間の酸収量の差異は恐らく単離セルロース中のアセチル基含量の差に由来するものであることが示されたことになる。第2部としては上に述べた如く, 異なる植物から得られたセルロースの酸収量の差はむしろアセチル基含有量の差に帰することが大きいという想定の下に, KLASON等の得た発見を訂正すべく, でき得る限り純粋にしたセルロースとして, ホロセルロースからヘミセルロースを抽出した残渣を更に1% NaOH処理を施したものを, アラカシ材とスギ材とより得て乾溜を試みた。その結果は, 経過, 酸収量ともに実験誤差の許容限界内において, 全く綿セルロースの場合と一致することを見出し, セルロースは起源如何にかかわらず, 純粋であれば等しい乾溜の結果を与えるこことを実証し得た。かくして木材は乾溜においては, 酢酸はセルロースからその3.6%, ヘミセルロースからはその3.3%, リグニンからはその0.6%が得られると考えられ, これらの値と木材組成の値とから計算して得られる酸量の合計計算値と実際に得られる酸収量の差は, アセチル基に由来するものとし, 木材の各成分の酢酸源としての関与する度合が定まるといえよう。
- 一般社団法人日本森林学会の論文
- 1958-02-25
著者
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南 享二
東京大学農学部
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南 享二
Department of Forest Products, Faculty of Agriculture, University of Tokyo.
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河村 喜美恵
Department of Forest Products, Faculty of Agriculture, University of Tokyo.
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大島 永義
Department of Forest Products, Faculty of Agriculture, University of Tokyo.
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大島 永義
Department Of Forest Products Faculty Of Agriculture University Of Tokyo.
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河村 喜美恵
Department Of Forest Products Faculty Of Agriculture University Of Tokyo.
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