ソルガム幼植物の低温障害に対するステロール, アルコールヂメチルスルフォキシドの影響
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概要
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熱帯, 亜熱帯原産の作物は, 一般に0℃以上の低温で障害を受けることが知られているが, その生理的機構を追究する目的で実験を行なつた. ソルガム(コウリャン黒〓2号または青刈ソルガム雪印コンモン)幼植物を合成樹脂製小型鉢に土耕栽培し, コレステロール, アルコール(グリセロールほか4種)およびヂメチルスルフォキシドを土壌に添加して, 6℃の低温による障害発生に対するこれら添加物の影響をしらべた. 上述のアルコール類およびヂメチルスルフォキシドは, 蛋白質の低温変性をおさえる作用があると考えられており, コレステロールは, 細胞原形質の脂質成分のひとつであつて, 生体膜構造の安定化に寄与していると考えられている. なお, 低温による根の吸水阻害の影響をおさえるため, 相対湿度を90%以上に保つた. 結果は次のとおりである. 1) 低温処埋により葉身が軟化し, さらに変色して暗灰色または暗褐色をあびることが認められた. また, 6℃の低温処理後, 15℃ヘ移すと, 急激に萎凋枯死することが認められた. さらに, コウリャンでは茎が軟化して挫折倒伏することが認められた. 2) コレステロールを土壌に添加すると, 上述の低温障害の症状の発生が著しく少なくなつた. アルコール, ヂメチルスルフォキシドも, 低温障害症状の発生を少なくする傾向があることが明らかに認められた. アルコールのうちではグリセロールがもつとも効果が大であつた. 3) 6℃の低温下では, ソルガムの伸長生長はほとんど認められず, また, コレステロール, アルコール等を添加して障害の発生が軽減された場合でも, 伸長生長の促進は認められなかつた. 常温下ではコレステロールの伸長阻害作用は認められず, グリセロールも18℃, 湿度90%以上では伸長阻害作用は認められないので, 6℃の低温下での伸長の停止はグリセロール, コレステロール等の害作用によるものではなく, 低温自体の影響によるものと考えられる. なお, 対照としてエンバク, ライムギ幼植物の6℃での伸長生長をしらべたところ, 両者とも明らかに伸長することが認められた. 以上の結果から, 低温障害の発生には, 原形質蛋白の低温変性ならびに脂質が関与する原形質の特性の低温による異常が関係しているのではないかと推測した. また, コレステロール, アルコール等により障害の発生が軽減されても, 伸長生長が促進されないのは, 既報の, 熱帯原産のものと温帯原産のものとで, リン脂質の脂肪酸組成に差異があることもひとつの理由ではないかと推測した. ステロール, アルコール類を低温障害防止の化学的制御法として適用しようとすることは, 問題が多いと考えられる. しかし, 低温障害の原因のひとつが, 疎水結合の異常にあるとすれば, 1-アニリノナフタレン-8-スルフォン酸のような疎水基検出試薬を, 温抵抗性の検定に適用する可能性も考えられる.
- 日本作物学会の論文
- 1973-06-30
著者
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