水稲の長期無施肥栽培田の土壌に関する知見
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
滋賀柴栗東町の試験田(地下水位低く,乾田型で黄褐色)と守山市の試験田(地下水位高く,湿田型で暗褐色,黒灰色でグラィ化傾向あり)における自然的農法田(無施肥田)と同一立地条件下にある普通の慣行栽培田(施肥田)につき,その土壌の理化学的および微生物的性質と土壌腐植および土壌糖類について検討を加えた。土壌の諸性質は土壌型,土性,立地的環境や栽培条件によって影響を受けるが,おもに栗東地区試験田における施肥田と無施肥田の土壌についての相異点をあげると次の通りである。1.無施肥田は施肥田にくらべて上壌はしまって固く,透水性や通気性は一般に不良である。また土壌の水中沈底容積は小さく耐水性団粒の生成は少ない。2.無施肥田のpHは一般に低くEhは高くなり,交換酸や加水酸度は大である。すなわち,無施肥栽培は土壌の酸性化をすすめた。また,無施肥田土壌ではEeOは少なく,全窒素量はあまり変らないが,NH_4-NとN0_3-Nと全Cは減少し,そのC/N比は低下する。なおSi0_2、P_20_5, K_20などの有効成分量の低下が認められる。とくに無施肥田の表層よりの有効珪酸の溶脱は土壌コロイドの劣化を促進する。3.栗東試験田の土壌中の天然養分供給量の順位はK_2O>P_20_5>Nでこの傾向は無施肥田に行いて顕著に認められる。水田における稲(Top leal)のN量は,無施肥田に行いて少なく(/N比は大である。また,水田の水口により中央部,水尻部にむかって稲の生育は一般に劣り,また植物体中の成分特にN含量は少なくなりC/N比が大となる。この傾向は無施肥田において顕著である。4.水田土壌中のAzotobacterによる遊離窒素の固定量は無施肥田において少なかった。5.土壌微生物,特に硫酸還元菌,脱窒菌その他の嫌気性徴生物の存在は無施肥田において少ない。この傾向は硫酸還元菌において明らかにみとめられた。また細菌,糸状菌についての根圈効果は,稲の生育時期によって異なるが、一般に無施肥田において小さい。6.土壌中の糖類の含量は土壌中の有機物(腐植)と相関的な関係にあり,従って微生物の生育やその他稲の生育時期によって変化するが,一般に無施肥田に少なかった。なお構成糖については無施肥田と施肥田について明かな相違は見出し得なかった。7.稲の無施肥栽培は長期にわたると水田においても土壌の物理的・化学的性質を変化させ、また土壌の微生物活動を抑制して土壌中の植物遺体の腐植化や糖の生産に影響するものと考えられる。稲の無施肥栽培または特に窒素欠乏土壌においては収量の低下は予想されるが,植物体中のC/N比が高くなり稔実歩合は大となる。これよりして無施肥栽培においては一般に蛋白質少なく澱粉含量の高い良質米の生産が期待される。かくして土壌中の窒素含量の低下は生産物の品質に影響を与えるものと考えるが稲の栄養生理上注意すべき点である。
- 近畿大学の論文
- 1979-03-15
著者
-
松本 貞義
近畿大・農
-
松本 貞義
近畿大学農学部農芸化学科
-
松本 貞義
近畿大学農学部農芸化学科植物栄養学研究室
-
柘植 利久
近畿大学農学部農芸化学科・肥料学研究室
-
柘権 利久
近畿大・農
-
柘植 利久
近畿大学農学部農芸化学科 土壌肥科学研究室
関連論文
- 土壌中の稲ワラの腐朽分解過程におけるサッカラーゼ活性
- 奈良市周辺の閉鎖系水域における重金属の挙動とミジンコを用いたバイオアッセイ(関西支部講演会, 日本土壌肥料学会支部講演会講演要旨集2004年度)
- 奈良市近郊における土壌中の多環芳香族炭化水素類 (PAHs) の動態調査(関西支部講演会, 日本土壌肥料学会支部講演会講演要旨集2004年度)
- 水辺植物による重金属の集積(22. 環境保全, 2004年度大会講演要旨集)
- 58(P-31) 海洋物由来微生物T-1株から単離した新規カロテノイド配糖体 : 構造決定と培養特性(ポスター発表の部)
- 17 土の黒色度とメラニン化の関係(関西支部講演会)
- 重金属集積植物セイヨウカラシナのカルスにおける重金属の挙動(「若手研究者の初論文」)
- シロアリとミミズが造成する塚土壌(九州支部春季講演会, 日本土壌肥料学会支部講演会講演要旨集2004年度)
- 土壌生物(第3部門 土壌生物)
- キュリーポイントパイロリシスガスクロマトグラフィー質量分析計によるミミズの活動が土壌有機物におよぼす影響についての解析
- 1101 蛍光染色法によるリアルタイム菌数計測(分離精製工学,センサー・計測工学,免疫工学,一般講演)
- 1 インドネシア・スマトラ島の赤色酸性土壌帯に生息する土壌動物の調査について(関西支部講演会)
- 23-11 インドネシア・スマトラ島中位段丘耕地において化学肥料の低減と有機質資材を組み合わせた持続可能な土壌修復(23.地球環境)
- 17-9 スマトラ島の東南域における持続的な農地利用開発に関する土壌生物学的調査研究 : 立地利用形態の異なる土壌に生息するアーバスキュラー菌根菌(17.畑地土壌肥沃度)
- 4-34 樹園地における施肥資材と土壌動物群集について(4.土壌生物)
- 4-12 土壌有機物に関する研究 : ミミズの生息環境と土壌微生物について(土壌生物)
- 酸化的ならびに還元的条件下の土壌中における各種土壌微生物群の挙動
- 水稲の長期無施肥栽培田の土壌に関する知見
- ミミズとその糞土について
- 重金属化合物の土壌微生物に及ぼす影響に関する研究(第1報) : 土壌中における微生物群のPopulationと土壌生産性に関する微生物活性におよぼす重金属化合物の影響について
- 土壌腐植物質に関する研究腐植酸中の無機成分について
- 2-4 黒色土壤の腐植酸と結合無機成分について(2.土壤有機および無機成分)
- 鶴見緑地公園における異なる植生下の土壌と土壤動物群集
- 土壌中の稲ワラの腐朽分解に伴うフルボ酸画分の挙動
- 磁気作用の生化学的効果に関する実験的研究(第1報) : 植物と微生物にあたえる磁場の影響について
- 奈良市近郊における土壌中の多環芳香族炭化水素の挙動調査(若手研究者の初論文特集)
- 熱帯域の農耕樹園地に生息する土壌動物 : キーストーン種 ミミズの生態・機能・役割について(課題 : 熱帯における有用生物資源の多様性とその利用)
- 32 施肥量がアーバスキュラー菌根菌感染に与える影響(関西支部講演会)
- 22-48 草本植物による重金属の集積とファイトレメディエーションへの適用(22.環境保全)
- 2-14 土の易分解性アミノ酸とメラニン物質の関係(2.土壌有機・無機化学)
- トビムシの住む森 : 土壌動物から見た森林生態系, 武田博清著, ISBN4-87698-309-7, 四六判, 266pp., 2,100円(税別), 京都大学学術出版会(京都), 2002年3月
- 2. 熱帯域の農耕樹園地に生息する土壌動物 : 主としてミミズの生態・機能・役割について(熱帯における有用生物資源の多様性とその利用)
- 55(P-12) アフリカ産食用葉,フヨウに含まれる化粧品・美白作用物質の探索(ポスター発表の部)
- 資源循環型社会をめざしたミミズの利用 : 国際会議の報告と日本の現状
- 6-2 温度環境がトビムシ(Folsomia hidakana)の生理生態に及ぼす影響(6.土壌生物)
- 土壌の肥沃化に寄与するミミズの摂食排糞活動 (その1) 可給態リン酸とミミズ糞土のホスファターゼ活性
- 4-32 土壌におけるミミズ・ダニ・トビムシ類の挙動と機能について(4. 土壌生物)
- 樹木の栄養と施肥に関する研究(第1報) : 林地に栽植した造林用樹木苗木の生育,肥料養分のとりこみにたいする施肥の影響と林地土壌中における施肥養分の挙動について。
- 表層および表層土生活型ミミズの生態
- ミミズと土と有機農業, 中村好男著, A5判, 123pp., 本体1,600円(税別), 創森社(東京), 1998年
- 土壌の肥沃化に寄与するミミズの摂食排糞活動(その2) ミミズ生息土壌と非生息土壌のホスファターゼ活性
- ミミズ糞土中の窒素成分と微生物について
- 開墾造成樹園地におけるミミズ・ダニ・トビムシ類の個体数
- ミミズ糞土中の微生物・糖・アミノ酸
- 奈良県樫辻地区における造成樹園地上土壌の理化学性と土壌動物
- 樹木の栄養と施肥に関する研究(第2報) : 造林植物の根のカチオン置換容量と究極PHの測定,特に他の植物との比較について
- 12 インドネシア・スマトラ島の赤色酸性土壌帯に生息する土壌動物の実態(関西支部講演会)
- 熱帯における土壌動物と植物遺体の分解について
- 廃棄物埋立処分地の環境評価に関する土壌生物科学的研究の試み -主として土壌・植生・土壌生物相からの展開-