嘘つきは誰か : "The Liar"における二重の眼差し
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概要
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作家が概念を導入する場合重要なのは,「概念人物」を用いるということである。ジェイムズはこの作品"The Liar"において「嘘」という純粋概念から「嘘つき」という概念人物を生み出した。語りの中心であるライアンの視点は,階級闘争における敗北と失恋からくるコンプレックスにより歪められており,このことはステイズ邸の食堂での会話から読みとることができる。また,そこでの匿名の女性との会話により,彼の描く肖像画が彼の観察眼以上に描写力に富むことが明らかになる。この作品には二つの肖像画が登場するが,いずれも彼の筆力からモデルの醜悪な面がはっきりと描かれているため,モデルによって抹殺されたと考えられる。ライアンは過去の恋人キャパドーズ夫人を信頼し彼女を大佐の嘘から覚醒させようとするが,匿名の女性が正しくも指摘する通り,この作品における一番の「嘘つき」は実は彼女なのだ。この作品の今ひとつ重要なポイントは,切り裂かれた,あるいは売られた肖像画の詳細をジェイムズが明らかにしていないということである。ジェイムズはこの策略により,この作品にもう一人の視点人物,キャパドーズ夫人を設定することに成功したのである。
著者
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