無意識と記憶 : Saul Bellowの"Mosby's Memoirs"
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概要
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"Mosby's Memoirs" における我々の課題はそのタイトルにもある「回想=記憶(メモワール)」の機能について考察することである。この作品はモズビーの回想と現在の言説の交錯という形で成り立っている。メスカル酒の酔いによる言説の歪曲は,現在と回想を繋ぐベローの戦略である。そしてこのことは,我々が記憶の問題を考える際の糸口ともなる。時間が過ぎ去ること即ち過去は現在に起因するものであるが,記憶とはこの「過ぎ去る現在」としての過去と同一ではなく,純粋な過去の存在を構成するものであって,現在における過去の再現前化である。この意味で記憶とは心理的なものではなく,むしろ時間的なものである。一方,「無意識」に目を転じれば,ラストガーテンの回想への逃避や,ミトラの廃墟に関する彼の言説から,ナルシシズムや死の欲動を読みとることができる。モズビーは自己の回想をラストガーテンのそれで偽装しながら,実は記憶を抹消しようとしていた。***スが生を外へ向ける欲動であるとすれば,ナルシシズムとは生を自己へ向ける欲動である。その意味でナルシシストは本質的に死の欲動と手を結んでおり,ミトラの墓地のイマージュにこのことはよく表れている。
著者
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