「トロイカ」という名の文庫本 : 太宰治『斜陽』の小さな語用論問題
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概要
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太宰治の有名な小説作品『斜陽』には「トロイカ」という名が記された「文庫本」が登場する。『斜陽』は,太田静子の『斜陽日記』に依拠して書かれたものとされるが,『斜陽日記』の該当個所にもやはり「トロイカ」という「小さい本」が出てくる。しかし,「トロイカ」というタイトルをもつ文庫本の存在を確認することはできなかった。もしそうした本が実際には存在しないなら,読者は文脈に応じてその本に関する想定を創造的に構成しなくてはならないことになる。小論では,「トロイカ」は,チェーホフの戯曲作品『三人姉妹』を示す符牒ではないかという解釈を提示する。また,そう解釈した場合に,どのような効果が文脈上達成されうるのかを具体的に考察し,「トロイカ」を『三人姉妹』の符牒であると見る解釈が十分に可能であるということを語用論の観点から述べる。In Osamu Dazai's most famous novelette Shayo, we find the description of a paperback labeled Troika. It is well known that Dazai wrote this novelette on the model of Shizuko Ota's Shyo Nikki. Also in its corresponding passage, we can find almost the same description of a small book labeled Troika. However, it has been unsuccessful to identify the actual entity of the paperback-type book titled Troika. If there are not such a book, every reader has to creatively construct some assumptions for the book according to her contextualization. In this paper, I bring up one interpretative possibility that Troika could be the secret code for Chekhov's drama Tri Sestroy (The Three Sisters). I argue how contextual effects can be achieved under this way of interpretation, and claim from the viewpoint of linguistic pragmatics that my interpretation regarding Troika as the code for Tri Sestroy must be convincing enough.
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