『善女列伝』に見られる女性の「愛」について II
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概要
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『善女列伝』は,古の著名な女達が登場する一種の伝記的な作品である。物語は,愛を信じた10人の女達の悲劇集となっており,同時にその愛を裏切った男達の残酷な物語にもなっている。そして,古の愛の悲劇をこの世の愛の悲劇として,チョーサーは扱っている。10人の女達は,クレオパトラ(Cleopatra),シスビー(Thisbe),ディドー(Dido),ヒプシピル(Hypsipyle),メディア(Medea),ルクリース(Lucrece),アリアドゥネ(Ariadne),フィロミエラ(Philomela),フィリス(Phyllis),イペルムネストラ(Hypermnestra)の順で語られている。チョーサーが,本来世俗的な物語であるにもかかわらず,この作品のタイトルに'legend'(「聖人伝」)という語を用いたのは,この列伝に何か教化の意味を込めてのことであることがうかがえる。そして,特に,チョーサーは,女達の無垢な性格とそのもろさを強調し,彼女達が陥入つた愛の悲劇的状況をペーソスに訴えて描いている。それらが連続して語られる聴衆への効果が,チョーサーの意図した最終的な点である事を論証するのが本論の目的である。既に,前号(ARTES No.1.1987)で,『善女列伝』に関する概説及び(1)クレオパトラ伝,(2)シスビー伝,(3)ディドー伝と3つの列伝を扱っており,本稿はその続編に当る。構成は,各列伝のストーリーの概要とその解釈,そして最後に,まとめとする。
- 1988-06-25
著者
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