反すう動物のコバルト欠乏症に関する研究 (VI) : Co欠乏症の発病機作について
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概要
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めん羊17頭を用い, 4回にわたって実施したCo欠乏症の発病, 治療試験の結果を綜合的に考察し, Co欠乏症の発病機作についてつぎのような推論を行なった。1) 反すう動物のCo欠乏症は, 根本的には飼料中のCo不足に起因するが, 第1胃内微生物に対するCoの供給不足が第1胃内のcobalamin合成量低下の主因と考えられる。2) 第1胃からのcobalamin供給が低下しても, 動物体には肝などに蓄積があるため, ただちに欠乏状態に陥るのではないが, 血中のcobalaminは漸減を始める。正常な機能を維持するための血中cobalamin限界量は, 0.2∿0.3mγ/mlの範囲と考えられる。3) cobalaminの不足は, 補酵素型cobalaminの関与するribotide-deoxyribotide間反応を阻害し, DNAの生合成を低下させて, 血球造成をはじめ, あらゆる細胞の増殖を妨げるものと考えられる。4) cobalaminの不足は, 補酵素型cobalaminの関与する別の径路, methylmalonyl-CoA-succinyl-CoA間反応を阻害し, 反すう動物にとって重要な栄養源であるpropionateの代謝系への導入を妨げ, propionateから作られるべき糖質の不足をきたすものと判断される。また, この糖質不足のためにacetate, butyrateの利用も妨げられると解釈され, 血中には飼料採食後長時間にわたってVFAや中間代謝物質が蓄積するようになる。5) おそらく血しょう成分の異常を反映して, 異嗜や副腎皮質の機能亢進が起こるが, 前者はCoやcobalaminの補給に役立ち, 後者は蛋白の異化促進から糖質の補給に役立って, ともに血しょう成分の異常を解消する方向に働くものと考えられる。6) 前記のような動物体自身の対応によっても, cobalamin欠乏の進行を防止できず, 血しょう成分の異常が進行するときは, 血しょう中にVFAや中間代謝物質がますます蓄積して, ついには給飼前であっても, 正常動物の採食後と同様な成分比を示すようになる。この場合, 正常な動物で過食が自然に防止されるのと同様な機作により, おそらく間脳の食欲中枢に情報が伝達されるのであろう。動物は採食量の減少, すなわち, Co欠乏症の代表的症状として知られる食欲減退を起こすものと推論される。7) 食欲の減退は第1胃におけるVFAの産生量を減少せしめ, 血しょう成分の異常を軽減する効果をもつが, 採食量の減少によって, 第1胃をはじめとする各消化管の活動を低下させ, 反すう減退, だ動不活発などの症状を発現させる。また, ふん便の量的減少と飲水量の減少によって, 便秘の症状が発生するであろう。さらに, 栄養摂取量の減少と, さきに述べた細胞増殖の障害によって, そう削, 発育停止, 体重減少などの症状が表われるものと考えられる。8) 前述のごとく, DNAの合成障害によって血球の造成が妨げられる場合, 人類の悪性貧血の場合と同様に, 細胞質の増量が維持されるためと思われるが, 一時的に大血球性貧血の症状を呈する。しかし, Co欠乏症では食欲の減退によって蛋白摂取量が減少し, また副腎皮質の機能亢進によって蛋白の異化が促進されているため, 悪性貧血の場合とは異なって血球の大型化は進行せず, かえって小型化して, 正血球性貧血から小血球性貧血へと移行するものと推論される。9) 副腎皮質の機能亢進は, 体内の脂肪組織から脂肪を動員するものと思われるが, 食欲減退とpropionate代謝障害によって, 糖質が不足状態にあるため, 脂肪酸の利用が妨げられ, 動員された脂肪が肝に集積して, 脂肪肝, 肝腫大が起こるものと考えられる。このほか, 食欲の減退は, あらゆる栄養素の摂取量低下を招くため, さまざまな2次的栄養障害を発生せしめている形跡がある。10) 以上のごとく, Co欠乏症の主要症状は, いずれも補酵素型cobalaminの関与する2反応, すなわちa) ribotide-deoxyribotide間反応 b) methylmalonyl-CoA-succinyl-CoA間反応の阻害に起因するものと考えられる。また, 反すう動物は第1胃という特殊な器官をもち, 第1胃内発酵によって産生するVFAを重要な栄養源とするところに特徴があるが, propionateの利用にはb)反応を通過せねばならず, そのために反すう動物は, 単胃動物にくらべてはるかに大量のcobalaminを要求するものと推論され, これが反すう動物のみにCo欠乏症が発生する主要因と考えられる。
- 神戸大学の論文
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