プライマリ・ケアと心身医療
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概要
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昨年の夏,「普段思っていることを自由に」と,心身医学編集委員会から巻頭言を依頼された.新潟では7月10日に第17回認定医試験を無事に終えたが,その直後の13日に三条,中之島が水害に見舞われた.私が大学時代に居候していた三条の祖父母の家も一部被害を受けた.その後3ヵ月経ち,やっと何とか落ち着きはじめ,「大学における心身医学教育」について書こうかと考えはじめた頃であった.10月23日,アジア国際心身医学会で沖縄にいるときに,今度は中越地震が起きた.新潟に帰ってから中越の被災地に行き,その被害の大きさに驚くと同時に,被災者の診療中にたびたび大きな余震があり,地震の怖さを体験することになった.現在,水害,地震の被災者は仮設住宅に移動し,避難所生活者はいなくなったが,今後も被災者への長期的,包括的なケアが必要とされている.これだけたびたび災害に遭うことは,大変なストレス状況である.今回の被災者の診療にあたって,高血圧,頻脈,不眠が多く認められ,身体ばかりでなく「こころ」にも配慮した医療が必要であることが実感させられた.それと同時に,被災者への長期的ケアとして真に必要なものについても考えされられた.マスコミ報道では「こころのケア」が特に大きく扱われた.確かに「こころ」すなわち心理,社会的側面は重要であるが,実際の診療現場では,身体面との双方向性をもち,地域医療支援を核にした総合的なケアが要求されていると思われた.被災者の診療にあたるプライマリ,ケア医はそのような視点をもって臨んでいただきたいと感じる.プライマリ,ケアにおいて,心身医学的アプローチが重要であることは広く認識されているものの,その実践については困惑しているのが現状である.米国家庭医学学会などによるとプライマリ,ケアとは初期診療に重点を置いた医療形態で,患者に対し健康および疾病治療の両面で継続的な責任をもち,さらに特に医師-患者関係の相互作用とコミュニケーションを含む個人医療である.さらに,あらゆる健康,疾病問題についてプライマリに対応することである.プライマリ,ケア医に求められるものは,年齢,性別を問わず取り扱うこと,面接やコミュニケーションを大切にすることなどが挙げられている.これは心身医療でも重視されており,プライマリ,ケアと心身医療には多くの共通点がある.心身医療はその専門性(狭義の心身医療)と一般性(広義の心身医療)に分けて論じられることが多い.私が医学部教育で行っている心身医学,心身教育では専門性について扱うことが多く,一般性について述べることが少ないのが実状である.ところが,プライマリ,ケアでは心身医療の一搬性である全人的医療の実践が要求される.それを実践するためには患者の身体面についての情報を得るのはもちろんのこと,患者の心理,社会的側面も含めて総合的に捉えることが必要である.開業医と勤務医では提供する医療の質は必ずしも同一ではない.しかしプライマリ,ケア医として求められるのは心理,社会面の問題認知,これらの問題に配慮したコミュニケーションの尊重,コ,メディカルスタッフとのチーム医療を円滑に遂行するリーダーシップと総合力である.これらの実践が,心身医学が目指すべき地域チーム医療をも包括した統合された心身医療につながると考える.卒後臨床研修必修化による新医師臨床研修制度での総合診療および心身医学教育への取り組みに期待するところである.
- 日本心身医学会の論文
- 2005-04-01
著者
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