グリア細胞によるシナプス伝達制御 : 細胞外ATPの役割
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概要
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神経膠細胞(グリア細胞)は,ヒト脳ではニューロンの10倍もの多数を占めており,このグリア細胞存在比はヒトが圧倒的に高い.嘗て,ニューロンの物理的支持細胞と考えられていたこの糊(glue)様細胞であるグリア細胞が,実はニューロンの活動をダイナミックに制御しているとして最近注目を集めている.特に,グリア細胞で最大数を占めるアストロサイトは,ニューロンに寄り添い,シナプスを覆うように存在していること,ほとんどすべての神経伝達物質受容体を発現していること,ニューロン活動に応答して液性因子放出能を有すること,などから第三のシナプスとして注目されており,ニューロン−アストロサイトの協力によって所謂シナプス伝達が成り立っている可能性が示唆されている.本稿は,特にアストロサイト間の情報伝達“gliotransmission”が,アストロサイトが放出する液性因子“ATP”によって行われていること,また刺激依存的に放出されたアストロサイト由来ATPが,海馬ニューロンの興奮伝達を抑制性に制御していることを示す.さらに,アストロサイトは自発的ATP放出能を有し,これにより自発的gliotransmission,さらに恒常的に海馬ニューロンを抑制している.このように,脳のダイナミックな情報伝達·発信機能は,従来考えられていたようなニューロンの活動だけに起因するものではなく,アストロサイトの積極的な制御および加工を受けている可能性が高い.脳機能は,グリアーニューロン連関の総合的な機能としてとらえる必要がある.
- 社団法人 日本薬理学会の論文
- 2004-06-01
著者
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井上 和秀
九州大学 大学院 薬学研究院 医療薬科学専攻 薬理学分野
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小泉 修一
山梨大学 大学院 医工学総合研究部 薬理学教室
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小泉 修一
国立医薬品食品衛生研究所薬理
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小泉 修一
山梨大学医学部薬理学
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井上 和秀
国立医薬品食品衛生研究所 薬理
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小泉 修一
国立医薬品食品衛生研究所 薬理部
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