ブドウ‘ヒムロッド•シードレス’果粒の無核性発現に関する解剖組織学的研究
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概要
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ブドウ‘ヒムロッド•シードレス(ヒムロッドと略)’の無核果形成機構を組織学的に明らかにするため, 果粒および種子の発育, 花粉稔性, 子房内での花粉管の伸長, 開花後の胚珠の内部形態ならびに開花後の胚乳核, 受精卵の分裂などを有核品種の‘キャンベル•アーリー(キャンベルと略)’のそれと比較しながら検討した.1. 果粒と種子(胚珠)の発育: ‘キャンベル’の果粒は二重S字型生長曲線を示したが, ‘ヒムロッド’では, 生長の第2周期が認められず, 明確な二重S字型生長曲線を示さなかった. ‘キャンベル’の種子(胚珠)は開花1週間後より果粒生長第1期完了時(開花4週間後)まで急激に生長したが, その後は成熟時まで一定の値を示した. ‘ヒムロッド’の種子(胚珠)は, 開花2週間後までわずかに生長したが, その後は生長を停止した.2. 単為結果性: 無受粉による果実の着果率(単為結果率)は‘ヒムロッド’で23.3%, ‘キャンベル’で15.9%であった. 両品種とも単為結果性を持つことが認められたが, 果粒の大きさは自然受粉果に比べ, 小さかった.3. 花粉稔性: 寒天培地上での‘ヒムロッド’の花粉発芽率は14.0%, ‘キャンベル’のそれは22.2%であった.アセトカーミン染色法による稔性花粉は, 前者が90.4%, 後者が45.6%を示した.4. 子房内の花粉管伸長: ‘ヒムロッド’の花粉管の伸長速度は‘キャンベル’に比較してやや遅かった. しかし, 両品種とも受粉48時間後には花粉管が約8割の胚珠に到達し, 両品種間に明らかな差異は認められなかった.5. 胚珠の内部形態: 開花時において, ‘ヒムロッド’の内珠皮は異常に長く, 珠孔も大きいことが観察された. また, 卵細胞や助細胞の欠失したものや, 卵装置が完全に退化したものが多く認められ, 全調査胚珠の88.4%がそのような異常を示す胚珠であった.6. 胚乳核の分裂および胚発生: ‘キャンベル’では, 受粉3日後から胚乳核が分裂し, 受精卵の分裂は受粉約3週間後からであった. 一方, ‘ヒムロッド’では, 93.3%の胚珠で胚乳核の分裂が認められず, そのまま退化した. 6.7%の胚珠は開花6日後頃から分裂を始めたが, 2〜3回の分裂を行った後, 分裂を停止した. 受精卵の分裂は観察できなかった.以上の結果から, ‘ヒムロッド’果粒における無核性は, 受粉後の伸長花粉管が胚珠にまで到達するものの, 大部分の胚珠で胚のうおよび卵装置に異常が生じているため, 受精にまで至らないことが原因と考えられた. しかし, ごく少数の胚珠では胚乳核の分裂が認められたので, 受精が行われたものと解されるが, その後における胚乳核の異常分裂により受精卵は分裂が妨げられ, そのまま退化したものと考えられた.
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