畜産物の低温貯蔵
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概要
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乳,肉,卵はいずれも水分含量が高く,また固形物中にしめる蛋白質および脂肪の割合も高い.このような成分組成が畜産物を食品として非常にすぐれたものとしていると同時に,品質がきわめて変化しやすいものとしている.無論品質が変化しやすいといっても,畜産物の種類によって差異があり,均質な液状の乳がもっとも変質しやすく,殼で保護された形の卵は生鮮食品としてはむしろ非常に保存性がよいといえるし,組織系から構成されている固体の肉では変質しやすさは乳と卵の中間に位置する.またこのような畜産物の構造的な差異によってその品質を変化させる諸要因の重要性も異なってくるが,いずれにしても低温がこれらの品質変化を遅延させる効果があることは経験的に昔から知られていた.しかし畜産物の需給の規模が小さい段階では生の畜産物を長期保存する必要がなく,またその時代には低温を作り出す技術もなかった.畜産物の低温貯蔵が企業的に大規模に行なわれるようになったのは19世紀の後半,西欧において資本主義が発展し,畜産物需給の規模が拡大し,また氷が工業的に製造されるようになり,大型の冷却装置が製造できるようになった時期である48).最初に低温貯蔵の対象となったのは食肉で,新大陸から西欧へのチルド牛肉の輸送がフランスのTELLIERによって1868年に試みられたがこれは失敗に終った.その後引続いて食肉の低温輸送が主としてフランス人の手で行なわれ一応の成功をみるに至ったが,食肉の需給関係から企業的な食肉の低温輸送が実現したのはイギリスで,1880年前後からオーストラリアおよびニュージーランドからイギリス本土に食肉の低温輸送が行なわれるようになった.このように畜産物の低温貯蔵は長距離の食肉輸送ということから始まったが,今世紀に入って二回の世界大戦における軍事的な要請から,畜産物の低温貯蔵は飛躍的な発展をみるに至った.そしてその中心は大洋をへだてて大量の食料を送らねばならなかったアメリカであった.低温貯蔵の方式も冷蔵とともに冷凍が広く用いられるようになってきた.わが国においても近年の経済および社会の変化に伴なって食品のコールドチェーン(低温流通方式)が国家的な施策としてとり上げられるようになってきた.従来から食品衛生的な見地から牛乳,食肉などにはある程度の低温貯蔵はとり入れられてきているが,品質保持のための低温貯蔵としては不充分な点が多い.また低温貯蔵技術そのものも百年の歴史をもつとはいえ決して完成されてはおらず,依然として改善,開発が必要である.この総説では畜産物の低温貯蔵のうち主として冷蔵と微生物の問題をとり上げ,紙数の関係で冷凍に関しては概略のみ触れるにとどめる.
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