多重的アイデンティティ、土着性の欠如、そして明確な帰属性といった概念への疑念 : ウラジミール・ヴェルトリプとの対話
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概要
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1966年レニングラードに生まれたユダヤ系ロシア人ドイツ語作家、ウラジミール・ヴェルトリプは、1971年以降、家族とともにロシアからイスラエル、オーストリア、オランダ、イタリア、アメリカ合衆国と移住し続け、1981年以降最後にオーストリアに定住した越境作家である。果てしない移動にさらされていった青少年期の漂泊のトラウマは、書くことによって癒され自己形成される。その文学の根底的なテーマは疎外と故郷喪失の経験であるが、「自伝的」特徴を有する諸作品の背景には、1970年代の放浪の個人史と19世紀から現代に至るユダヤ移民史との交錯・フラッシュバックが見られ、経験と創作と連想との混合的な表現形式と、明確なヴィジョンを有する形象性の強い言語を特質としながら、その変転する語りの視点によって、物語が相対化および重層化される構造を有する。また、ショアの犠牲者たる東欧ユダヤ人の子孫としての継承された民族的疎外の問題も主題化される。多重化されたアイデンティティを持つ彼の目指す文学は、越境地帯に立つこと、自己発見、常に向こう側に立ってみること、つまり帰属性から離脱した地点に立つことを主眼とし、そこから歴史や記憶の痕跡を辿り現代を逆照射する。その場合、ロシア語の母語干渉を受けたドイツ語表現形式が生ずることもあり、スラブ文学のドイツ語版という様相を呈するが、それは「ドイツ国民文学」の革新につながる新たな表現をもたらす可能性を秘めている。
- 2009-06-30
著者
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