捕食動物に由来する刺激がヤギの生理学的・行動学的反応に及ぼす影響
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概要
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本研究の目的は、捕食動物に由来する種々の刺激がヤギに及ぼす忌避効果を、ヤギの生理学的および行動学的反応を解析することによって検討することである。実験1においては、7つの刺激-CDプレイヤーで再生したチェーンソーの運転音(ChS)、イヌの吠え声(DoB)、オオカミの遠吠え(WoH)、ライオンのうなり声(LiG)、トラのうなり声(TiG)、テレビモニターに映したオオカミの映像(WoV)、実物のイヌの毛皮(DoS)-をそれぞれ4頭のメスシバヤギに提示し、その反応を観察した。DoBおよびDoS区において、他の区に比較して血中コルチゾル(Cor)濃度が有意に高く(P<0.01、反復測定分散分析およびTukeyの検定)、30分間の身繕い行動の頻度が有意に少なかった(P<0.1、Friedmanの検定とNemenyiの検定)。他の刺激については、いずれの測定項目においても対照区(提示物なし、音声を出さないCDプレイヤー、映像を映さないテレビモニター)との間に違いはなかった。実験2においては、実験1と同じ4頭のヤギを用いて、ChS、DoB、WoH、LiG、TiG、DoSの6つの刺激の忌避効果を検討した。飼料のすぐ後方にこれらの刺激のいずれかを提示し、それぞれのヤギがこの飼料を摂食するまでに要する時間を測定した。4頭いずれの個体も、DoBおよびDoS区においては30分間の観察時間中に一度も飼料を摂食しなかった。一方、他の刺激においては遅くとも126秒以内には摂食を開始した。各個体においで、実験2における結果と、実験1における結果との間には強い相関が観られた(対血中Cor濃度:r=0.78〜0.94、対身繕い行動の頻度:r=-0.73〜-0.98)。実験3では、メスシバヤギ5頭を用い、実験1と同じ方法でChS、DoB、イヌの置物(DoF)、DoS、段ボール箱で覆ったイヌの毛皮(DSC)の効果を検証した。実験1と同様、DoBおよびDoS区において、有意な血中Cor濃度の増加と身繕い行動の頻度の減少が観られた。DSC区においては5頭中4頭が、顕著な血中Cor濃度の増加あるいは身繕い行動の頻度の減少のいずれかを示した。これらの結果から、本研究で観られたイヌの吠え声、あるいはイヌの毛皮に対する忌避効果は、ヤギがこれらの刺激に強い心理ストレスを持ったことが原因であると示唆された。さらに、視覚的な刺激は、少なくともそれが単独で提示された際には効果が薄いこと、聴覚的な刺激および嗅覚的刺激が強い忌避効果をもたらす可能性が示唆された。
- 2010-12-25
著者
-
小金澤 正昭
宇都宮大学農学部附属演習林
-
杉田 昭栄
宇都宮大学農学部
-
杉田 昭栄
宇都宮大農
-
青山 真人
宇都宮大学農
-
青山 真人
宇都宮大農
-
杉田 昭栄
宇都宮大・動物機能形態
-
杉田 昭栄
解剖学第三講座
-
杉田 昭栄
宇都宮大学農学部生物生産科学科動物機能形態学研究室
-
杉田 昭栄
宇都宮大学農学部生物生産科学科動物生産学講座
-
杉田 昭栄
東京都立大学 理
-
夏目 悠多
宇都宮大学農学部
-
福井 えみ子
宇都宮大学農学部
-
青山 真人
東京大学農学部
-
青山 真人
医療法人宝生会PL病院 泌尿器科
-
福井 えみ子
東京農工大学大学院連合農学研究科
-
福井 えみ子
宇都宮大学
-
小金澤 正昭
宇都宮大学
-
小金沢 正昭
宇都宮大学農学部附属演習林
-
青山 真人
宇都宮大学農学部
-
Fukui Emiko
東京農工大学 連合農学研究科
-
Fukui E
Faculty Of Agriculture Utsunomiya University
-
Fukui Emiko
Faculty Of Agriculture Utsunomiya University
-
Fukui Emiko
United Graduate School Of Agriculture Tokyo University Of Agriculture And Technology
-
杉田 昭栄
東京農工大学大学院連合農学研究科:宇都宮大学農学部
-
小金沢 正昭
宇都宮大
-
杉田 昭栄
宇都宮大・応生化・動物
-
小金澤 正昭
宇都宮大 農 演習林
-
杉田 昭栄
宇都宮大学農学部動物生産学講座
-
Koganezawa Masaaki
Faculty Of Agriculture Utsunomiya University
-
Fukui Emiko
Laboratory Of Animal Breeding And Reproduction Division Of Animal Science Faculty Of Agriculture Uts
-
杉田 昭栄
宇都宮大学
-
青山 真人
宇都宮大学
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