ボルネオの熱帯雨林の遷移段階と果実食性蝶類の多様性と「偽模写」の問題について
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概要
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果実食性チョウ類の種数と種多様性を,ボルネオ島サバ州のキナバル国立公園内に見られる6つの異なったタイプの森林間で比較した.サンプリングを行った6つの調査地区は,原生林,歴史の解っていない老熟林,営利的に伐採された遷移段階の異なる3つの二次林(すなわち,伐採後各々約30年,15年,5年経過した二次林),および村落に近いブッシュに囲まれた農地であった.各調査地区でのチョウの捕獲には,腐ったバナナを使用したベイトトラップを用い,チョウは生かしたまま捕えた.捕獲個体はマーキングした後にその場に放った.各調査地区のチョウ群集の種多様性は,Fisherの対数級数則のαを用いて算出した.また,各地区のチョウ群集の総種数は,Colwell(1997)の"MMMeans"法を使用して見積りした.原生林地区は最大の種数と種多様性を示したのに対し,村落に近い農地は最も低い種数を示した.3つの二次林地区の種数と種多様性は,これらの地区の中間の値を示し,中でも伐採後15年を経た二次林区において,伐採後約30年,および5年経過の二次林区よりも多様なチョウ類群集が確認された.おそらくサンプル数が少ないことに起因して,調査地区間における種多様性の違いの多くは統計的に有意とはならなかったが,群集間で示された多様性の変化パターンは,同じ調査地区より得られた他の鱗翅目(シャクガ科,メイガ科)のデータの解析結果とよく一致していた.各調査地区のサンプルにおいて再捕獲個体数を含めた解析を行うと,再捕獲の認められた多くの地区でFisherのαの値が低下した.すなわち,マーキングによるチョウの個体識別を実施し,サンプルへの再捕獲による個体数の擬似的増加の影響を除去すると,多くの場合でα値の信頼限界が低く見積もられ,またα値そのものは高く見積もられるだろう.α値およびその95%の信頼区間は,再捕獲個体数を含めたデータと含めないデータ間で変化し,その変化の大きさは,地区ごとに再捕獲率の大きさの違いに密接に関係していた.従って,サンプリングにおいて再捕獲が高率で生じるような方法や調査地の場合,偽模写の群集パラメータに対する影響が大きいために,マーキング等の実施による偽模写の影響が除去できる手法が採用されるべきである.なお,今回の個体識別調査により,タテハチョウ科の果実食性種Neorina lowii(シロモンムカシヒカゲ)で45日,Bassarona dunya(ドゥンヤリクイナズマ)で41日の最長寿命(最長再捕間隔)が確認された.
- 日本鱗翅学会の論文
- 2000-03-31
著者
-
北原 正彦
関東支部
-
Beck Jan
Department Of Animal Ecology And Tropical Biology (zoology Iii) Theodor-boveri-institute For Bioscie
-
Schulze Christian
Department Of Animal Ecology I University Of Bayreuth
-
Kitahara M
Yamanashi Inst. Environmental Sci. Yamanashi Jpn
-
Kitahara Masahiko
Graduate School Of Environmental Sciences The University Of Tsukuba
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