漂着鯨類の情報収集・蓄積と社会的活用(シンポジウム:流れ寄るモノの沿岸海洋学-海岸漂着物の現状・対策・未来-)
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概要
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鯨のストランディングは,かつては「寄り鯨」として海岸の地域住民に貴重な食料と富をもたらしてくれる出来事であったが,現代においては,海岸の清掃義務を負う地方自治体にとっては「巨大な生ゴミ」が突然出現する厄災となっている.一方,ストランディングは今や鯨類研究者達にとって,鯨類の研究材料を得る貴重な機会となっている.(財)日本鯨類研究所は,1986年から鯨類のストランディング情報の収集を始め,現在までに5,000件近い情報をデータベースに収録している.これらの情報は日本近海の鯨類の生態研究のために分析利用されている他,国立科学博物館や日本鯨類研究所のウェブサイトを通じて大部分が一般公開されており,内外の研究者やマスコミ等の要望に応じて必要なデータを随時提供している.ストランディングの現場では,主に水族館や博物館が中心となって調査や標本採集を行うことが多いが,鯨の死体を有効に活用するためには行政と研究者との連携が重要である.一部地域においては,行政と水族館,博物館,大学などが積極的に連絡を取り合い,情報収集や調査活動,生存個体救助や死体処理において連携する,いわゆるストランディングネットワークが構築されている.ストランディングする鯨類を幅広く社会的に活用するためには,研究者レベルだけでの活動ではなく,その成果を行政や一般市民に還元する事が不可欠である.今俊はこのようなネットワークが全国レベルに拡大されていくことで,「巨大な生ゴミ」を限られた研究者の学術研究に役立てるだけでなく,生存個体の救助活動やストランディング事例の情報公開を通じて地域住民の海と鯨類への関心を深めたり,博物館や水族館の標本を用いて教育活動に生かしたりするなどで,「寄り鯨」の新たな活用法が広がることが期待される.
- 2008-02-29
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