タカハシベッコウに関する諸問題
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概要
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タカハシベッコウNipponochlamys takahashiiはKuroda & Habe (1969)によって記載されたNipponochlamys属の1種である。本種の記載にあたってKuroda & Habe (1969)は,福岡県の若杉山から得られた標本の生殖器,歯舌の形態学的特徴を記述,図示した。一般にNipponochlamys属は,殻表に細かい成長脈を多数巡らし,曇った外観を呈するのが特徴である。しかし,タカハシベッコウは本属としては例外的に殻表が「平滑で,光沢を有する」ことが特徴とされる。原記載において,Kuroda & Habe (1969)は「本種もし解剖学的知見を得なかったならば,我々は恐らくヒラベッコウ属の1員と考えたであろう」と述べている。Kuroda & Habe (1969)は解剖学的特徴を重視して本種をNipponochlamys属に入れたが,その貝殻の特徴がNipponochlamys属らしからぬことを原記載時に指摘したのである。本種の原記載から30年あまりが過ぎ,「波部忠重記載の貝類」が出版された。これは波部忠重民が記載した貝類全種の原記載を再録した出版物であり,この中にタカハシベッコウの原記載も再掲載された。驚くべきことに,この「波部忠重記載の貝類」の1105ページ(タカハシベッコウの項)には,「波部追記」として「生殖器に関する記述および解剖図は,記載に用いた殻とは別種のものであった可能性があり,模式産地の標本により再検討を要する」とのコメントが追加された(波部,2001)。もし,この追記が事実であるならば,タカハシベッコウは2種(別種)の特徴を組み合わせて記載されたことになるため,原記載通りの生殖器と貝殻の特徴を併せ持つ種は実在しないことになる。また,本種をNipponochlamys属に含めた最大の根拠であった「軟体部の特徴」が別種のものであったならば,その分類学的位置も疑わしくなる。これは,そもそもタカハシベッコウなる種が本当に実存するのかどうかが疑われるという重大な問題である。本文では,この追記をめぐる背景について記述し,タカハシベッコウの「実体」について考察する。
- 日本貝類学会の論文
- 2007-11-08
著者
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