岩手に北海道を重ねた賢治寓話「黒ぶだう」の世界 : 菊池捍と佐藤昌介をめぐって
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
賢治寓話「黒ぶだう」の舞台である公爵別荘のモデルは,1926年に建てられ花巻市街に現存する洋館,菊池捍(きくちまもる)邸であることが明らかにされた(米地・木村,2006)。「黒ぶだう」とその他の賢治作品および菊池捍と彼の周辺の人物や事物を詳細に分析・検討した結果,この寓話は,建物ばかりでなく,建主の花巻出身で北海道清水町の明治製糖工場長であった菊池捍とその義兄佐藤昌介に深く関わるストーリーであることがわかった。「黒ぶだう」のあらましは,次の通りである。赤狐に誘われた仔牛が,留守中のべチュラ公爵別荘に入り,黒ブドウを食べる。狐はブドウの汁を吸って他は吐き出し,仔牛は種まで噛む。公爵一行が帰ってきたので,狐は逃げるが,残された仔牛はリボンを貰う。種まで噛む仔牛の登場は,製糖工場が甜菜を搾って糖液を採り,滓は乳牛の飼料として販売したことと関わる。また,華族を別荘の持ち主にしたのは,捍氏夫人の兄佐藤昌介北大総長が叙爵される時期であったからと考えられる。野生の狐はうまく逃げ,家畜の牛は残って人間との関係を深める,という寓話「黒ぶだう」には,野生動物も家畜もそれぞれが生きてゆける世界,賢治が酪農に期待をこめて描いた北海道と岩手とを重ねる北方的イーハトヴ,など小さな理想郷が見られるのである。「黒ぶだう」の執筆時期は,菊池捍邸完成時期,使用原稿用紙,叙爵時期,チェロの登場,などの諸点に基づいて,1927〜1928年と推定した。
著者
関連論文
- 宮沢賢治の作品に描かれたカラマツ林の景観 : 北原白秋の詩との比較
- 太宰治と志賀重昂の富士山観を比較する : 地形の数理的記述と審美的評価
- 宮沢賢治「猫の事務所」と郡役所廃止 : 政治的世界・民俗的世界・賢治の内面世界の重層性
- 岩手に北海道を重ねた賢治寓話「黒ぶだう」の世界 : 菊池捍と佐藤昌介をめぐって
- 賢治寓話「黒ぶだう」の西洋館モデルとしての花巻・菊池邸の発見
- 賢治寓話「茨海小学校」とその背景 : 環境教育教材としての活用と関わって
- 太平洋は当初「大平洋」であった? : 「大」間違いか「大」正解か
- 宮沢賢治の作品に描かれたカラマツ林の景観--北原白秋の詩との比較
- 銀河鉄道はどこを目指して走ったのか : パンパの地理と賢治幻想空間
- 近代日本における最も不運な地理教科書『さとのしるべ』について
- 地理的視点から賢治「銀河鉄道の夜」の謎を解く試み
- 甜菜紙筒移植栽培の普及要因
- ネパール農村の貧困とその規定要因 : ジャナカプール県ハライヤ集落におけるケーススタディ
- 岩手県における大規模土地改良区の運営に関する経済分析
- 書評 数納朗・范作冰・小野直達編著『絹織物産地の存立と展望』
- 宮沢賢治作品にみる測量や地図への関心 : 「銀河鉄道の夜」の「三角標」を中心に
- イーハトヴのモデルとしての中央ユーラシア : 岩手の風土に重ねた賢治の幻想を探る
- 牛乳消費減退時代の日本酪農の針路 (特集 日本酪農の進路)
- 不公正なグローバリゼーションとわが国の畜産 (特集 日豪FTAは日本農業を滅ぼすか?) -- (影響を受ける主要品目と地域経済への打撃)
- 生乳需給の将来展望 (特集 「減産型」計画生産をどう乗り切る)
- ネパール・ジャナクプル地域における灌漑コストと農業生産性
- 時子山ひろみ著『フードシステムの経済分析』(1999)日本評論社
- 水資源の効率的利用 : ネパールの小規模灌漑システムの事例
- 黒柳俊雄・出村克彦・廣政幸生 編著「農業と農政の経済分析」
- 酪農政策と新農業基本法
- シンポジウム「甘味資源対策と国内産糖」をめぐって
- ネパール・バングラデシュの農村
- 日本の潅漑開発援助と農業生産へのインパクト : ネパール・タライ地域の場合
- 書評 内田実著 北海道農業地域論
- ネパールの農業発展と小規模潅漑システム : サクー村における知見
- フィリピンにおける農村・都市労働力移動経路 : アンティケ州パンダナン村実態調査による実証分析
- ネパ-ルへの肥料援助とカトマンズ盆地における農業の変化
- ネパ-ルにおける潅漑農業の経済的意義--開発援助の視点から
- 北海道の府県向け移出型切り花生産地域の形成と集出荷方式 : 月形町,当別町の比較分析
- ウルグアイ・ラウンド最終協定案と国産でん粉 (コメ以外の関税化措置)
- 新関税品目と日本農業の将来方向 (ウルグアイ・ラウンド決着と2001年への展望--新国際時代の日本農業・農政) -- (転換迫られる日本農政)
- 開発経済学講座の課題と展望 (新農業経済学科の課題と展望)
- 国産澱粉の現状と自由化対応 (農業をめぐる国際問題-3-ガット裁定品目自由化の影響と対応)
- 戦前期養蚕業の経済分析
- 戦前期における養蚕・耕種部門間の労働生産性比較--多財生産関数による接近
- 商業ポテンシャルの推計
- 大正末期養蚕業の多財生産関数による分析--Canonical Ridge法の適用
- 生乳生産調整下の大規模乳肉複合経営の財務的成長分析(例会個別報告要旨(第114回例会))
- 鵜川洋樹著, 『北海道酪農の経営展開-土地利用型酪農の形成・展開・発展-』, 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構中央農業総合研究センター, 2006年, 239頁
- ネパール農村の貧困とその規定要因 : ジャナカプール県ハライヤ集落におけるケーススタディ
- 井上ひさし作品における架空地域と地図 : 吉里吉里国のモデル地域との関係私論
- 宮沢賢治が創った「ケンタウル祭」の由来と意義 : 短歌や「銀河鉄道の夜」とドイツ語・ドイツ文化との関わりをめぐって
- 銀河鉄道の「鳥捕り」狐仮説からみた宮沢賢治の重層的世界
- 銀河鉄道の「燈台守」ヘラクレス仮説からみた宮沢賢治の重層的世界
- 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」の中の異質の挿入部分「プリオシン海岸挿話」について
- 東北の山と海 : その自然と人文地理(インタビュー,第1部 賢治の見た100年前の東北から,前夜の東北)
- 文学作品に描かれた建築物の保存活用を中心とした、まちなみ景観の整備・修復・創出の研究 : 宮沢賢治の作品を例に(総合政策研究科修士論文(概要))
- 東日本大震災被災地域と文学の地理的関係 : 宮沢賢治・井上ひさし作品のメッセージ性を中心に
- 「銀河鉄道の夜」の用語「三角標」の謎 : 宮沢賢治の地図や測量への関心をめぐって
- 地図に見る文学と地域イメージ : 海坂藩とイーハトヴ
- 黒柳俊雄・出村克彦・廣政幸生編著, 『農業と農政の経済分析』, 大明堂, 300頁