ネパール農村の貧困とその規定要因 : ジャナカプール県ハライヤ集落におけるケーススタディ
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概要
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本論文では、ネパール国タライ平原におけるランドレス・ファーマーを事例に、貧困の要因について考察する。調査結果によれば、Haraiya村の1人当り平均年所得は、およそ100ないし160 U. S.ドル程度にすぎず、ネパール全体の平均より低い値である。これまでの研究では、移住地での土地取得を左右する要因を分析しているが、実際に土地所有の差がいかにして所得形成に影響を与えており、その結果いかなる貧困のレベルにあるか、いかにして貧困が再生産されているのかは明らかにされていない。本研究ではカーストによってどの程度所得水準が異なるのか、その実態と要因を農村調査によってどの程度所得水準が異なるのか、その実態と要因を農村調査によって明らかにすることを目的とする。ネパールにおけるカースト制度が農地取得と就業選択を規定し自由な資源移動を制約し経済発展に制約を与えているとの問題意識から調査を実施した。特に、入植時の農地保有に注目し、さらに貧困層における農地所有の意義について考察した。2では調査対象地域と方法について概説し、3ではネパールの人口増加と人口移動、調査対象集落の歴史について概説し、4では調査結果について論述する。5ではカースト間での所得格差に関する回帰分析を行う。5は結論である。カースト別の平均所得水準は順に7,661Rs (Rawat), 6,979Rs (Pandit)、6,629Rs (Yadav),5,231Rs (Mahara)となっている。経営規模が大きい世帯ほど世帯員1人当り所得も高いとはいえこの所得水準は日本円に換算すると約1〜1.5万円にすぎないものであった。Rawatカーストの世帯員1人当り所得が,高い理由は農外雇用による世帯所得の半分以上を占める収入の高さを指摘できる。Panditカーストは移住への理由をみても本来、土地取得を目指したものではなかった。伝統的な生業である職を生かし、農外収入を得ると同時に土地拡大意欲を持ち所得を増大させ生計を立てている。世帯主以外の収入が全体の39%を占めている。Maharaカーストの一人あたり所得水準は最下位に位置している。安定的な生業がなかったために移住時における土地所有の初期条件の差が決定的であり農地面積が限られたもとでは生活していくのがやっとの状態である。農外所得においても農業労働所得の割合が大きいので、季節性に左右されざるをえず所得の変動も大きい。それが、子供の教育の機会を奪い恒常的な職業に就く機会をも奪ってしまっている。所得水準の回帰分折からは以下のことが明らかになった。第一にカーストという社会的な要因が世帯員1人当りの所得に差を及ぼしていること。第二に移住時における土地所有の初期条件の差が、その後の世帯所得に影響を及ぼし、土地を多く所有している世帯の方が,世帯員1人当り所得が高いこと。第三に非農業カーストの中でもその世帯員1人当り所得は伝統的な職業の違いによって差が生じていること。つまり,農村における貧困は,土地なし世帯と伝統的な生業を持たない下位カーストに最も強くあらわれる。従来,農村においては非農業世帯と農業世帯は分けてとらえられてきていた。しかし,伝統的な生業を持たない世帯は、農村における貧困層となり続け停滞していたのに対して、非農業世帯であってもその生業をもつものはそれを生かし,土地所有を増加させ,農家世帯に匹敵する所得を獲得するに至った事例を分析結果は示していた。
- 2002-10-01
著者
-
近藤 巧
北海道大学
-
土井 時久
雪印乳業(株)酪農総合研究所
-
土井 時久
岩手県立大学
-
近藤 巧
北海道大学大学院農学研究院
-
長南 史男
北海道大学大学院農学研究院
-
柴 洋志
Hokkaido Local Govenment
-
近藤 巧
Department of Agricultural Economics, Graduate School, Hokkaido University
-
長南 史男
Department of Agricultural Economics, Graduate School, Hokkaido University
-
土井 時久
岩手県立大
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