賢治寓話「黒ぶだう」の西洋館モデルとしての花巻・菊池邸の発見
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概要
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賢治寓話「黒ぶだう」は,仔牛が赤狐に誘われ,ベチュラ公爵別荘にわき玄関から入り,二階で黒ブドウを食べる。狐はブドウの汁を吸って他は吐き出し,仔牛は種まで噛む。公爵たちが帰ってきて,狐は逃げ,残された仔牛はリボンを貰う。この話の公爵別荘のモデルは花巻市街に現存する菊池捍(きくちまもる)邸であることが明らかとなった。菊池邸は1926年に建てられ,外見は洋館,中が畳敷きの和室で,花巻出身で北海道清水町の明治製糖工場長であった捍氏が建主である。北海道の洋館建築の様式をとり入れつつも,武家住宅の伝統を受け継ぎ,洋館には無いはずの本玄関と脇玄関を付けた。賢治が仔牛たちは「わき玄関」から入ったと書いているのが菊池邸をモデルとした証拠である。この建物は他にも「黒ぶだう」の別荘と合う点が多い。菊池捍邸が賢治作品の創作の秘密を解く鍵として極めて重要なことがわかったが,建物自体も大正期の洋風建築として価値の高いものであり,保存保全が望ましい。
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