大雪山上部に分布する植物群落の植生地理学的位置づけ
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概要
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1.大雪山上部の植物群落を対象として,極東ロシア北部の植物群落との植生地理学的な関係を検討した。2.大雪山上部には3タイプの主要な植物群落が認められた。ダケカンバ林,ハイマツ群落,風衝矮性低木群落である。これらは,見かけ上はこの順番に垂直下方から上方へ分布している。しかし,実際にはすべて潜在的なダケカンバ林帯内にあり,その中で混生している。3.極東ロシア北部の水平分布と照らし合わせると,これら3タイプの群落はnorthern borealサブゾーン(Tuhkanen, 1984)のものと最も関連が深い。Northern borealサブゾーンの中には内陸域から沿岸域にかけて大陸度-海洋度の著しい気候傾度(C1, OC, O1, O2セクター, Tuhkanen, 1984)があり,大雪山上部の植物群落についてもそうした気候傾度の中での植生地理学的位置づけを考える必要がある。4.水平分布での対応植物群落は,ダケカンバ林はO1セクターのカムチャツカ半島に分布するもの,ハイマツ群落は 大陸内部からやや沿岸よりのC1,OCセクターに分布するグイマツーハイマツ林,風衝矮性低木群落はO2セクターの千島列島に分布するtreeless heathsにそれぞれ対応する。しかし,大雪山上部の中では,こうしたスケールでの大陸度-海洋度の気候的違いは実際には存在しない。5.大雪山上部の植物群落は,全体としては,すべてほぼ同一のnorthern borealサブゾーンに属し,そのなかで,極端な大陸気候ではなく,より海洋度が高い領域に広がっているといえる。北方のsubarctic tundraサブゾーン(Aleksandrova, 1980)の植物群落ではない。6.大雪山上部に分布する植物群落の植生地理学的位置づけは,1)3タイプともに潜在的なダケカンバ林帯内部にあって,そのなかに共存していること,2)見かけ上の垂直的配列であるダケカンバ林-ハイマツ群落-風衝矮性低木群落の分布は,大陸度-海洋度でみるとO1-C1・OC-O2に対応し,それぞれの配列順が整合的ではないこと,が大きな特徴である。7.このような植生地理学的位置づけの特徴は,大雪山での冬季の強風と多雪が,高木を排除するとともにダケカンバ林,ハイマツ群落,風衝矮性低木群落,雪田植物群落の分布を支配して作りだしたものである。
- 横浜国立大学の論文
- 1999-03-31
著者
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