ノギランの胚嚢形成及びこの過程におけるカロースの消長
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概要
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ノギラン(Aletris luteoviridis)は一般的にはユリ科の一種として扱われている。しかし,DAHLGEN & CLIFFORD (1982)はこのユリ科を細分し,Melanthiaceaeを設け,これにノギランを収容している。このMelanthiaceaeの少数の種で胚嚢の形成過程が調査されているが,単胞子性のほかに二胞子性の胚嚢形成様式を持つものがある(DAHLGEN & CLIFFORD, 1982)。大胞子形成過程に於ける減数分裂中の細胞の壁へのカロースの沈着様式に関する調査はまだ十分には行われていないが,単胞子性と二胞子性の胚嚢形成過程ではその沈着様式にかなりの相違が,これまでの調査では認められている(KAPIL & TIWARI, 1978)。単胞子性の胚嚢形成過程では減数分裂を行っている大胞子母細胞及び二分子と四分子を構成している各細胞の壁には,ほぼ完全にカロースが沈着する。一方,二胞子性のものでは,二分子の隔壁にカロースの沈着がみられるだけである。しかし,キブシは,双子葉植物のキブシ科の植物であるが,単胞子性の胚嚢形成様式を持つ。ところが,キブシの大胞子形成過程では二分子と四分子の隔壁にカロースが沈着するだけである(SATO & TAKEDA, 1985)。キブシはかつてツバキ科に含められており(LAWRENCE, 1951),ツバキ科と分類学的に近縁な関係にある。そのツバキ科の胚嚢形成様式はほとんどが二胞子性のものである。そこでノギランの胚嚢形成過程の調査に加えて,この過程でのカロースの沈着様式も調査した。胚珠は倒生で,珠心を二枚の珠皮が被っている。胚嚢は単胞子性8核タデ型にしたがって形成される。カロースは通常は二分子と四分子のそれぞれの細胞を分けている隔壁にだけ沈着するが,時には,減数分裂に入った大胞子母細胞では確認できなかったが,二分子や四分子の全体を囲んでいる壁にもわずかではあるが沈着する。このようにノギランでは,キブシと同じカロースの沈着が普通にみられ,これまでに調査されている単胞子性のカロースの沈着様式とほぼ同じ様式もときたま認められる。単胞子性の胚嚢形成過程でも二分子と四分子のそれぞれの細胞を分ける隔壁にしかカロースの沈着しない様式が,単子葉植物でもみられたことになり,単胞子性の胚嚢形成過程でみられるカロースの沈着様式は一様なものではなく,種による変異があると思われる。ノギランやキブシでみられる隔壁にだけカロースが沈着する様式を,二胞子性のカロースの沈着様式と安易に比較することはできないかも知れないが,ノギランもキブシも近縁な分類群に二胞子性の胚嚢形成を行うものがあることは注目されてよいと思われる。
- 横浜国立大学の論文
- 1988-10-31
著者
-
佐藤 嘉彦
Department Of Biology Faculty Of Education Yokohama National University
-
桐戸 永美
Department of Biology, Faculty of Education, Yokohama National University
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