奄美大島・名瀬市における幼児教育の実態 : 横浜市との比較
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概要
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1.1976年度の横浜市における幼児教育の実態調査にひきつづき,地域差をみるために奄美大島名瀬市において,同様の調査を実施した。調査は「おけいこごと」やテレビに関する意見,幼児教育に関する意見や母親・教師の役割をどを含んでいる。被調査者は名瀬市内の幼稚園に子どもをかよわせている母親と,幼稚園教師である。2.幼児をとりまく環境にも,横浜市と名瀬市のあいだに差がある。幼児のきょうだい数では,3人以上のものが横浜群で22%であるのに対し,奄美群では48%に達している。また,両親の学歴は,横浜群のほうが高い。さらに,父親の職業が会社員であるものは横浜群で80%であるが,奄美群では職業は多様であった。母親も,家事のみに従事しているものは横浜群80%であるのに対し,奄美群では30%であった。3.奄実で「おけいこごと」に通っている幼児は全体の3分の1で,横浜に比べるとかをり少ない。「おけいこごと」やテレビに関する母親・教師の意見は,横浜に比較するとかなり好意的で,また,その害を深刻に受けとめるところまでいっていをい。4.学習と遊びに対する意見では,奄美の母親は横浜に比較して,学習に対してより積極的な態度を示している。これは,幼稚園における教育への期待にもあらわれており,"何かができるようになること"への期待は大きい。奄美の教師は遊びに関して,横浜の教師よりも統制的であるが,全般的に教師間のズレは母親間に比べて少ない。5.幼児教育における母親と教師の役割について,奄美の母親は,横浜の母親に比べより多くの役割を占めるべきだと考えている。教師間のズレはほとんどみられない。6.横浜と奄美の幼稚園教師間には,幼児教育観に大きな違いはみられない。一方,横浜と奄美の幼児の母親間には,かをりの意見の相違が見出された。教師たちは,現場の教育にたずさわる以前に,幼児教育に関する知識や態度を学習している。このような経験の少ない母親は,日常生活の中で得られる情報に左右されやすいと考えられる。したがって,奄美大島と横浜市のように,文化的教育的情報量に差のある生活圏の母親のあいだに意見の相違が生まれるのであろう。奄美の母親は,幼児教育に対する要求水準が高い。たとえば就学前に「字の多い童話をひとりでよめる」,「100までの数がいえる」などを幼児に期待している。学習面において幼稚園教育に過度の期待を抱くものが多く,教師の意見とのあいだに相違がみられる。一方,幼児教育における母親と教師の役割の受けとめ方をみると,奄美の母親は,多くの面で母親の占める役割が大きいとしており,教師と母親の役割の分化が明確でない。奄美の母親は幼児に対する基本的理解にやや甘いところがあり,これに幼児をとりまく物理的教育環境が整備されていをいことや情報量の少なさが相乗して,幼児教育への"あせり"が生まれているように思われる。その結果,現状の基本的理解をさしおいて,個々の状況の中で,幼児が"何かをできるようになること"を期待し,幼児に対する統制的態度を重視していると考えられる。
- 1978-11-30
著者
-
鈴木 乙史
東京大学
-
依田 明
心理学教室
-
繁多 進
保健管理センター
-
鈴木 乙史
国立特殊教育総合研究所
-
清水 弘司
東京都立大学大学院
-
宮前 理
東京都立大学大学院
-
清水 弘司
埼玉大学
-
依田 明
昭和女子大学
-
宮前 理
東京都立大学
-
清水 弘司
東京都立大学
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