家鶏筋胃の運動(予報)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1.家鶏筋胃の運動型としては, 筋胃後端から前端に向う蠕動と, 腺嚢に限局する運動の2型が挙げられる.蠕動の初発部位は, 背側及び腹側の後端部, 即ちM.lateralisの後端であつて, ここから出発した蠕動波が背側と腹側を伝播するのである.背側後端部の収縮は, 毎回腹側後端部より僅かにさきに発現するが, 背側の収縮が腹側に伝播するような所見は全々認められない.従つてこの両部位は, それぞれ独立したpace maker性をもつといえる.しかし両部位の間に興奮伝導が存在しないという意味ではない.ところで, われわれの観察は左側(右側から観察しがたい)で行われたのであるが, 構造及び運動の性質からいつて, Fig.1のA, B両部位は左側にのみ位置するという訳ではなく, 右側のこれに対応する部位をも含めた立体的の一定領域にpace makerがあると考えるべきである.右側からの観察において, 背側の蠕動が, 腹側のそれに常に先行することも, この見解から容易に理解できる.既に実験方法に述べたように, われわれは筋胃の全形を, 同一視野内にみたのではなく, 結局左側後半部と右側前半部を別々に観察したのであつて, 上述の成績はこれらを綜合した所見なのであるが, しかし綜合にさいして, 相互に矛盾したり, 理解に特に困難がある様な点はなかつた.2.われわれの観察した限りでは, 前端から逆に後端に進行する運動は認めなかつた.筋胃は哺乳類の単腔胃と異なり, 寧ろ複腔胃の第一胃乃至盲腸に類似する盲嚢形態なのであるが, 蠕動の進行からみると盲腸型ではなく, 第一胃の類型というべきであろう.しかし, われわれの観察時の状態が, 生理的恒常であつたかどうかは明確に断定し難い.蠕動波が中途で屡々停止すること, また蠕動休止期が時に著しく長いことがあつたこと等も, この疑問を強める.この点は今後に確かめたいが, 一方向性の蠕動のみの場合に, 筋胃への内容進入と後端部への移動は, どのようにして行われるのであろうか.これについては腺胃運動と, 筋胃の蠕動性収縮後の弛緩による陰圧の2要因が可能性として考えられる.Fedrovskiiが七面鳥において[サ]嚢の内容排出は筋胃の空虚度に比例するといい, 広瀬・大谷が山羊について再嚥下は第1胃の収縮段階には起らないと述べているのは, 少くとも内容進入時における陰圧の関与を示唆するものであろう.3.腺嚢に最初に認められる拡張は, この部位への内容進入に基ずく受動的なものと考察される.その根拠は, (1)拡張が常に筋胃後端部の収縮期に発現し, 拡張の変動も, 前者の収縮過程に対応する.(2)拡張後に強い収縮, つづいて弛緩する等に求められる, 従つて筋胃後半部の一部内容は後端部収縮に際して, 腺嚢内に押しやられ, ここで消化液を混じて, 再び排出されるという事ができる.4.筋胃内の内容分布は, 哺乳類の単腔胃にみるような, 明確な食物の重積を示さない.このことは両者の本質的な構造差異から当然ともいえる.筋胃内のgritの常在もそれを裏書きすることであろう.ただわれわれの成績は僅かに2例に過ぎないし, 2.5時間以前の分布, または〓嚢, 腺胃の系統的な推移については今後に追究したい.5.以上述べたところは, 筋胃運動の概略的知見であるが, 更に細部, 特に腺嚢及び十二指腸の各運動との関連性については, 究明すべき点が甚だ多い.筋胃と十二指腸運動リズムの問題は, 既に或程度観察したが, いまだ不十分の点があるので, 今後に続行し, 報告したい.6.以上の成績はつぎの様に要約される.a)家鶏の筋胃に認められる運動は, 蠕動及び腺嚢運動の2型である.b)筋胃後端部即ち背側と腹側のM.lateralisの後縁に周期的収縮が生起し, ここから収縮波が蠕動として, それぞれ背側及び腹側を前端部に伝播する.従つて筋胃蠕動のpace makerはM.lateralisの背側と腹側の後縁に存在するといえる.pace maker両部位の運動周期は一致しているが, 常に前者の収縮開始より, 僅かにおくれて後者が収縮する.c)腺嚢は蠕動pace maker部の収縮時に, 受動的に拡張し, ついで収縮, 弛緩する.この運動リズムは前者と一致しているが運動はこの部に限局し, 収縮波が進行することはない.d)筋胃内では, 哺乳類の単腔胃にみられるような食物の明らかな重積が認められない.
- 鹿児島大学の論文
- 1954-11-30
著者
関連論文
- 家鶏筋胃の運動(予報)
- ニワトリの盲腸内消化に関する研究 : III.腸管内容の揮発性脂肪酸と飼料中粗線維との関連性について
- 豚の小腸運動に対する自律神経毒の影響
- ニワトリ小腸の神経支配について
- 112 ニワトリ腸管運動の神経支配 : III. 小腸の促進性神経について(生理学・薬理学分科会)(第72回日本獣医学会記事)
- ニワトリの盲腸内消化に関する研究 : II.腸管内容の揮発性脂肪酸(VFA)について
- ニワトリ大腸の神経支配について
- 5 ニワトリ腸管運動の神経支配 : II. INR の呼吸抑制について
- 36 ニワトリの腸管運動の神経支配 : I. 大腸の促進性神経について
- ニワトリの盲腸内消化に関する研究 : I.腸管内容の化学的組成について
- 鶏の血漿蛋白に及ぼすTa^の影響
- 鶏の血漿蛋白に及ぼすSr^の影響 (II)
- 148. 鶏の血漿蛋白分屑に及ぼす ^Sr の影響 I. (第45回日本獣医学会記事)
- 鶏の血漿蛋白に及ぼす^Srの影響(I)
- 腸管への^Caの排泄について
- 大腸運動に関する研究 : VIII.家兎盲腸の内容移動について
- 大腸運動に関する研究 : VI.結紮及び狭窄の影響について
- 家鶏胃内における食餌の移動について
- 大腸運動に學する研究 : IV. 山羊の結腸迷路の運動
- 大腸運動に関する研究 : III.AChに対する結腸括約部の反応
- 大腸運動に関する研究 : V.結腸膨起の生理的意義に対する一考察
- 家鶏の血液に及ぼす盲腸剔出の影響