琉球列島産ミカヅキモの研究
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概要
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細胞が小型で接合子にトゲのあるミカヅキモClosterium calosporum complexはこれまでに世界各地から報告されている。 KRIEGER (1935) はそれらを C.calosporumとその変種maiusとbrasilienseとに統合整理した。その後多くの人達はその便利さのためか彼の分類系に従って来た。われわれは琉球列島のチリモ類のフロラを調査する過程で, 上記の分類群に属する藻と, いくつかの特徴でそれらと異なる藻の多数のクローンを無菌的に分離することができた。これらの琉球産クローンと合衆国産, 北海道産, 愛知県産の無菌クローンとについて, 一定条件下で培養し統計的方法を用いて栄養形態および接合形態の比較をし, C.calosporum complex の解析を試みた。本研究は多くの異質の生物群を機械的に統合してしまったと思われる KRIEGER (1935) の分類系の再検討の一環として行なわれた。材料は沖繩本島の宜名真と与那覇岳山麓および西表島の干立とピナイ川下流の4ケ所の水田土壊と北海道阿寒町, 愛知県作手村および合衆国の土壌から分離された。これらのクローンは形態, 産地などにより10系統に区別された。なお, 合衆国産の系統はP.W.Cookによって分離され, PRINGSHEIMの二相培地を用いて10年以上継代培養されたものである。本研究ではそれらを合成培地で無菌的に培養した。 Cook (1963) の測定値と本報告の測定値とを比較すると, ほとんど差違が認められない。したがって本報告で問題とする諸形質は継代培養において安定したものであると考えてよいと思われる。培養には合成培地 (Table 1) を用いた。温度は23-25℃, 光源には白色螢光灯を用い, 明暗の周期(16 : 8)の下で, 栄養増殖には約4000lux, 接合誘起には約10000luxの照度で培養した。栄養形態の測定は3週間栄養増殖をさせた細胞を明期に入って約8時間後にフォルマリンにより固定して行なった。この状態では分裂直後の細胞は見られず, ほとんどのものでは新半細胞が旧半細胞と同じ長さに復元していた。細胞の幅および先端間の距離については各クローンで50標本を測微接眼レンズを用いて測定した。背側の湾曲度については顕微鏡写真より各クローンで20標本を測定した。接合形態の測定は接合胞子形成後少なくとも10日を経た材料について行なった。胞子の長径と短径の測定は各系統で10標本に基づいたものであり, 測定値にはトゲが含まれていない。トゲの長さは各胞子について比較的長いもの2個を選び, 10個の胞子について測定した。測定値については最大値, 最小値, 平均値, 標準偏差, 変異係数をもとめた (Tables 4-7)。以下に論議されることがらは琉球の5系統(25クローン), 愛知県の1系統(1クローン), 北海道の1系統(1クローン), 合衆国の3系統(3クローン)に基づいている。Sexualityについては2系統において heterothallismが, 他の8系統においてhomothallismが見られた。C.calosporum complexにおけるheterothallismの例はこれまで知られていない。 heterothallic の2系統は沖繩本島と西表島より得られたものであるが, 両系統間でも接合胞子の形成が確認された。10系統30クローンにおいて各クローンの変異係数は栄養細胞の幅において1.4-5.7%, 先端間の距離において4.3-9.0%であった。宜名真産 (R-5) の10クローンはheterothallicであり, 交配の結果同一の″生物学的種″に属するとみなされる。この10クローンよりランダムに選ばれた100標本の変異係数は幅において4.9%, 先端間の距離では7.1%であった。これらの結果は今後野外における個体群の解析を行なう際の基礎資料となる。与那覇岳山麓産 (R-9) の9クローンは栄養形態, 接合形態および培養上の二, 三の特徴において明瞭に区別される2系統よりなる。このうち大型の細胞を持つ系統は栄養細胞の幅において他の9系統とは不連続である(Fig. 1参照)。この系統は栄養細胞の形態からC.dianae EHRENBERGとC.parvulum NAEG.var.maius WESTとに最も近いが, 両者の接合子が平滑であることから両者とは異なる生物に属するものとみなされる。小型の細胞を持つ系統は栄養細胞の先端の特徴においてC-319,C-320,Akan-46とよく一致し, また大きさと湾曲度の点でも互いに連続している。但しC-320については細胞の幅と湾曲度の点で小型の細胞を持つ系統, Akan-46の2系統とやや不連続であり, C-319とは上記2点の他, 幅と先端間の距離との比において大きく隔たっている。この4系統はKRIEGER (1935) によるC.calosporum var.maiusに含まれる。残る5系統R-5,R-11,A-2-22,C-318,R-12-2 のうち, C-318は栄養形態においてC.calosporum WITTROCK (1896) に最も近く, 他の4系統と湾曲度において不連続である。栄養形態, 接合形態からR-5とR-11との間には差違を認められない。これは交配の結果と一致する。上記2系統は栄養細胞の大きさに関してはA-2-22と連続するが, 先端の特徴と接合形態においては差違が認められる。R-12-2は細胞の大きさにおいて他の9系統と不連続である。本研究で用いた方法はミカヅキモのような特徴の少ない生物の分類学の発展に有効な方法であると考える。
- 国立科学博物館の論文
- 1974-09-20
著者
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