日高山系の地衣類
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概要
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北海道日高山系の地衣類は, 従来ほとんど研究されておらず, まとまった報告もない。1970年夏, 著者等は国立科学博物館の日本列島の自然史科学的研究に関連して, 同山系のペテガリ岳, 楽古岳, アポイ岳, 襟裳岬で地衣類の調査を行なった。著者の1人黒川はこの間に分類学的研究を, 中西は生態学的研究を担当した。本報告では分類学的研究の成果だけを取り扱った。また, 生態学的研究の成果については, 後日を期している。本論文では, イワノリ属, ムカデゴケ属を除く169種の地衣を報告した。その大部分は日本の他の地域でも普通に見られるものであるが, 2・3注目すべきものも含まれている。すなわち, 北海道特産と考えられるもの3種(Cetraria microphyllica, Cladonia hidakana, Hypogymnia hokkaidensis) があり, そのうち Cladonia hidakana は目下日高特産と考えられる。また, 今回の調査で北海道で初めて発見されたものに Anaptychia propagulifera, Cladonia strepsilis, Lobaria adscripturiens, L. retigera, Massalongia carnosa があり, これらのなかで, M. carnosa は日本における第3の産地である。また, 命名上の取扱いとして新しい組合せ Umbilicaria kisovana (ZAHLBR. ex. SATO) KUROK. をつくった。本報告のなかで, 新種として記載したものが4種あり, 以下これらについて簡単に述べる. Cladonia hidakana KUROK. 前述の通り現在のところ日高山系ペテガリ岳で採集した標本が1点あるだけである。形態は C. pityrea var. zwackii f. subacuta VAIN. や f. hololepis (FLORKE) VAIN. に似ているが, 粉芽はなく, メロクロロフェア酸を含むので明らかに区別される。Hypogymnia hokkaidensis KUROK. フクロゴケ属 (Hypogymnia) で裂芽のある種類として日本ではイボフクロゴケ (H. subcrustacea (FLOT.) KUROK.) が1種しか知られていなかったが, 本種は裂芽のある第2の種である。H. subcrustacea に似ているが, フィゾダール酸を含まないので髄層が P-であるから容易に区別できる。現在のところ北海道の3ヵ所で採集されているだけで, イボフクロゴケが北海道から九州まで分布しているのに比べると, その分布の範囲は非常に限られているようにみえる。Pyrenula japonica KUROK(アオゾメサネゴケ)日本では最も広範に分布しているサネゴケ (Pyrenula) であるが, この機会に記載することにした。子嚢層が1%ヨード液で青色の呈色反応を示すのが特徴である。Pyrenula shirabeicola KUROK. et S. NAKAN. (シラベノサネゴケ新称)本種の分布は着生基物の面から興味ある話題を提供する。本州の亜高山針葉樹林帯では, 本種はシラべの樹幹に生育するが, 同じ地域に分布しているオオシラビソやコメツガにはほとんど着生しない。古くからシラベの樹幹が白色ないし淡い肉色で, 他の針葉樹と容易に区別できるといわれているのは, 本種の着生によるものである。北海道にはシラべが分布していないために, 本種の産出は期待できなかったのであるが, 今回の調査で, トドマツの樹幹にときどき着生することを発見した。なお, エゾマツに着生することはないようだ。シラベノサネゴケはハイイロサネゴケ (Pyrenula stramineoatra var. cinereostraminea VAIN.) に似ているが, 子嚢層の全体の形が球型にならず, 円錐形ないし半球形になる点で区別される。
- 1971-11-30
著者
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