ウメノキゴケ科の新属 Cetrariopsis とその分布
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概要
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1979年夏, 甲斐駒ケ岳の信州側山麓で Cetraria wallichiana の1標本を採集した。この標本及び国立科学博物館所蔵の標本を検討した結果, 本種の皮層の組織がいわゆる prosoplectenchyma であることと, 地衣体裏面に多数の子器をつける点で現在のエイランタイ属 (Cetraria) の概念に合わないことが明らかになった。一方, 近年 W. CULBERSON & C. CULBERSON が広義の Cetraria から分離したコガネトコブシゴケ属 (Asahinea), トコブシゴケ属 (Cetrelia), ウスバトコブシゴケ属 (Platismatia) などでは, 皮層の組織が prosoplectenchyma であって, 子器も地衣体表面に形成され, C. wallichiana との類縁が考えられる。しかし, Asahinea では地衣体表面に仮根がなく, Cetrelia と Platismatia は C. wallichiana と同様に仮根はあるが, Cetrelia では子器盤 (disc) が穿孔し (C. wallichiana の子器は穿孔しない), Platismatia では脂肪酸系(C. wallichiana では芳香族)の二次代謝産物を産出するなどの点で異り, 系統的には別のものと考えられるので, C. wallichiana に対して, 新属 Cetrariopsis を提唱した。 ところで, Cetrariopsis wallichiana は従来ヒマラヤ地域と台湾から記録されていただけなので, 今回の発見で日本産が始めて確認されたことになる。また, 広義の Cetraria のなかで, その分布がヒマラヤ地域, 台湾, 日本に限られているものとしてトコブシゴケ (Cetrelia nuda) が知られている。しかし, Cetrelia nuda は日本では極めて普通であるが, 台湾やヒマラヤ地域ではむしろ稀であるのに対して, Cetrariopsis wallichiana はヒマラヤ地域及び台湾ではそれほど珍らしくないのに対して, 日本では明らかにごく稀である。何れにしても, ヒマラヤ地域で普通の種が, 今回甲斐駒ケ岳で採集されたことは, いわゆる南アルプスの地衣フロラの特性の一端を示すものと云えよう。
- 1980-12-01
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