死後血管造影法による犬糸状虫症の肺循環障害に関する病理学的研究

概要

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臨床症状および剖検所見から, 犬糸状虫(D.i.)症で死亡したことが明らかな成犬45頭に死後肺動脈造影を, さらに5頭に死後気管支動脈造影を行い, 肺動脈および気管支動脈の形態学的変化を検索した. 成績の大要は次の通りである. 1. 死後肺動脈造影によるD.i.症犬の肺動脈の異常陰影像は, 屈曲, 拡張, 虫体の陰影, 不鮮明化, 波状皺襞, 絞扼, 狭小化, 中断, 消失および草根状構造であった. 2. 上述の異常陰影像の発現状況に基づいて, 死後肺動脈造影を行った45頭の犬の肺造影所見を4型に大別した. 第1型は, 分枝小動脈の消失像が高度で, これに伴い, 肺動脈主幹部や各葉動脈の屈曲, 拡張が著明なものである. 第2型は, 各葉動脈にかなりの程度の不鮮明化像や, 絞扼・狭小化像などの閉塞性変化が認められるが, 消失像は葉動脈の比較的末梢部に限られ, 草根状構造像も乏しいものである. 第3型は, 閉塞された肺動脈の再疎通と, 造影剤が肺・気管支両系動脈間の前毛細管性吻合部を通過して, 気管支動脈内に流入したために生じた草根状構造像が著明なもので, 他の葉動脈にも拡張, 消失像などの異常陰影像が, かなりの程度に存在するものである. 第4型は, 各葉動脈の消失像が極めて高度であリ, 残りのものも第1次分枝動脈以下の消失のため, 枯木状を呈するものである. 各型の度数分布は, 第1型は7例, 第2型は8例, 第3型と第4型は各15例であった. 3. D.i.症犬の死後気管支動脈造影で, 気管支動脈の著明な屈曲, 拡張および増数を認めた. 4. Fulton方式による心室分離秤量法により, 心臓の左右心室壁の重量比を計測したところ, 第1型の平均値は1.7, その他の3型の平均値はいずれも1.8で, すべての型に高率に右心室肥大の所見を認めた. 5. 以上の検索成績により, D.i.症で死亡する犬は, 著明な肺循環障害に陥っていることが病理学的に立証された. また死後血管造影法のD.i.症への応用が, 肺血管病変の分布状況の全体的把握には, 極めて有効なことが明らかになった. 本論文の要旨は, 第66回日本獣医学会(1968年, 札幌)および第67回日本獣医学会(1969年, 東京)において発表された.
社団法人日本獣医学会の論文
1976-10-25

死後血管造影法による犬糸状虫症の肺循環障害に関する病理学的研究

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