東アジア産イタチゴケ属(イタチゴケ科, 蘚類)およびその近縁属の研究III.Pterogonium属, その分類学的位置づけについての検討
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概要
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Pterogonium属(蘇類)の分類学上の位置づけについての検討をおこなった。本属はBRUCH et al. (1851)によって設立された古い属でこれまでに数多くの種が報告されているが,そのほとんどは他属へ移しかえられたため現在では唯一種Pterogonium gracile (HEDW.) SM.のみからなる単型属と考えられている。この種はヨーロッパ及び北米に分布している。中国からの報告もあるが記載から判断するとイタチゴケ属の種と混同したもののようである。Pterogonium属の分類学上の位置についてはBRUCH et al. (1851)がPlylaisaeaceaeに所属させて以来,Pterogoniaceaeとして独立させる(SCHIMPER 1860, BUCK 1980a),シノブゴケ科を含む広義のウスグロゴケ科に所属させる(LIMPRICHT 1895),イタチゴケ科に含める(FLEISCHER 1906, BROTHERUS 1925等)など様々な見解がだされてきた。著者はイチタゴケ科の各属について特に朔歯の形態に注目して検討を進めてきた。Pterogonium属についても配偶体・胞子体の形質を近縁とされてきた諸属と比較し,上記の見解の妥当性を調べた。本属の特徴は以下のとおりである。配偶体:顕著な柄をもち,枝・茎・柄各部につく葉は形が異なる;中肋は叉分し,葉長の1/3-1/2;葉上半部には顕著な鋸歯をもつ;葉細胞は短いだ円形でそのいくつかに大きな突起をもつ。胞子体:朔歯は二層からなり前朔歯を持たない;外朔歯の歯は外面に顕著な横筋をもち,湿ると閉じる;内朔歯は高い基底膜と短く細いセグメントからなり,このセグメントは外朔歯の歯とは互い違いの位置にある;朔は長い円筒形で直立する;胞子は稔性高く,直径13-16μmである。イタチゴケ属とは外朔歯の歯の模様,中肋の形など多くの点で異なり,近縁とは考えれない。同様にAlsia, Antitrichia, Bestia各属との近縁性も見いだすことはできなかった。LIMPRICHTはキヌイトゴケ属との類縁を示唆している。キヌイトゴケ属は葉細胞が短いだ円形であること,顕著な柄をもつこと,外朔歯表面に横筋をもつ種が存在することなど,Pterogonium属と関連性を示す特徴が多い。このことはLIMPRICHTの見解を支持するものと考える。
- 日本植物分類学会の論文
- 1988-06-25
著者
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